加藤 一:編/恐怖箱 心霊外科

 お題を設定しての競作集。
 今回は「病院・病気」とか。
 元々病院は怪談の宝庫。怪異によって病気になる、という話も少なくない。
 よってこのテーマこそは相性が良さそう。ということで大きな期待を持って読み始めたのだけれど、残念ながら結構な肩透かしだった。
 いくつか面白い作品はあったけれど。

 「診療所の歌声」廃墟の筈なのに、一日だけ復活していた診療所。
 幻なのかタイムスリップしたのか。姿が見えないまま聞こえてくる歌声、というのも神秘的だ。
 最後に埋もれて消えてしまうのも情感をそそる。

 「かれらのこと」どうやら秘密を保持するために色々とぼかしていたり語り手自身が語っていなかったりすることが結構あるようで、そのため話全体に何だかぼんやりとしている。
 強烈な出来事があるわけでは無いのだけれど、次々と妙なことは起きておりボディブローのように効いてくる。稲川怪談のようだ。しかも、最終的には一人死去一人行方不明、という結末を迎えてしまっており、一体何が起きていたのだろうか、と真剣に考えさせられる。

 「痺れ」死体が埋まっているとその部分と同じところが痺れる、などという話は初めて聞いた。この話の場合、二人を重ねることが偶然や気のせいではない、と信憑性を高める役割を果たしている。
 全身の場合、体全体が痺れたりもするのだろうか。

 「なれはて」あまり霊能者が登場する話は取り上げないことが多い(好きでは無いので)のだけれど、この話は凄い。恨みを買うような行為を続けることがどれだけ凄惨な結果を齎すのか、厭という程思い知らされる。まさに因果応報。なので悲惨な話ながら読後感はむしろすっとする。彼の両親には気の毒ながら。

 「安置拒否」まるでホラー映画のように強烈な怪異。
 ブラックホールのように人の霊もしくは思いを吸い込んでしまう存在。いわゆる悪霊のような代物だろうか。
 それに留まらず語り手の仕事仲間は命まで奪われてしまい、その霊的なものは捕らわれたままになってしまっている。とんでもなく強大な力だ。どんな奴の思いなのだろうか。

 「ファントム・ペイン」失ってしまった左手を舐められるだけでなく激痛が襲ってくる怪異。稀少だしおぞましい。鏡で駆除できる、というのも興味深い。
 しかも魔が差しただけ、と思われていた事故が家に纏わる祟りのようなものかもしれない、という後日譚。そのエピソード自体かなり謎めいていて色々想像してしまう。

 病院の怪談、ということで想像する範疇に収まってしまっているものも多く、何とも物足りなかった。
 やはり何か特定のテーマで絞り込む、ということ自体が話の枠を狭めてしまうのか。

恐怖箱 心霊外科posted with ヨメレバ加藤 一/雨宮 淳司 竹書房 2020年11月27日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る