朱雀門 出/第五脳釘怪談

 立て続けに不条理系。
 その分今回の方が割を食ってしまっている感はある。

 「ニコッパチ」前半のは怪談とは言い難い気がする。猫の発言と失踪との間にあまりに関連性が無さ過ぎる。それに、「チャイチャイ」という言葉を話した、となっているけれど、これでは言葉と言いきれないようなものだ。TV番組を観ていると珍犬珍猫は世の中に沢山おり、その中にはこんな声が、と驚くことも多々ある。そんな中には今回の声に近いものを聞いたことがあるように思うし、少なくともこういった発声は出来そうだ。
 後半も夢の話であり、偶然と考えることも可能だ。
 ただ、これによってあの有名なバスジャック事件を回避できたことは事実で、それだけで充分に興味深い。

 「送り先」本当に訳の判らん話。
 本来家とはかけ離れたところへ送り届けながらきちんと家に着いている。
 それは夢や幻覚でもなく、実在する場所であった。
 一体どういう怪異なのだろう。気になって仕方ない。
 何となく語り手が男性、知人が女性と思っていたら、読み返すとどちらも男性だったらしい。何だか残念。

 「五階の地下室」とんでもなく怪しい連中に集合住宅には存在しない筈の地下室に連れていかれる、というのは不条理且つかなり不気味だ。
 夢である可能性もシンクのモノから否定でき、説明のつかない興味深い事例であると言える。

 「凶穴」これも異世界のようでそうとも言い切れない。妹はどこかに消えてしまったのではなく、事故で死んだことになってしまっているからだ。おそらくちゃんと存在していたのだろう。
 この話がちょっとおかしいのは事件前後の記憶が分断されているように思えること。
 母親が急に出現したように見える、というのは記憶の欠落もしくは混乱が存在しているように思える。それは脳の問題のようでもあり、妹が穴に「落ちた」瞬間から語り手を含めて別の世界に移ってしまった、とも考えられる。

 「修学旅行の夜」寝言で会話し合う友人たち。しかも内容も妙だ。
 寝起きで体験しいつの間にか寝てしまっている、というシチュエーションは夢である可能性も捨て切れない。
 その後の行動も謎と言えば謎。

 「エレベーターの乗客」これまた理解不能。勿論良い意味で。
 エレベーター内の光景やその行動もおかしいけれど、それが消えてしまった挙げ句、飛び降り自殺現場に集まっている。しかもどちらでも語り手の方を見つめてしまう。
 これ、結構怖いなあ。
 これも幽霊、という言葉では片付けられないし、推移が何とも不条理。何だったんだろう、ほんとに。

 「石塔」石塔の力に操られて、その塔を削り出す、というのも不思議だ。その鑿と金鎚はいつどうやって用意したものなのだろうか。
 そこで感じた気持ちとその後の平穏な日常とのギャップも何だか不釣り合いで変な感じ。
 別の人による怪談は極オーソドックスなものであるのも興味深い。
 こんなタイプの石塔は見たことが無い。なので想像もつかないながら、形状と文字から石碑の可能性が高そうだ。

 「タッツ」この生き物?は奇妙だ。遠い外国含め棲息している動物にこれに近いものもいる気がしないし、UMAの映像などでも見たことが無い。
 ただ、その姿は情報が不足していて今一つはっきりと像を結べない。
 まず、顔はどんなだったのか。蛇そのままだったのかあるいは全く違っていたのか。体の表面はどんな状態で色は何色だったのか。確かに話の主眼は足音だからそれさえ判れば話は成立してしまうけれど、それでは物足りない。この話のリアリティを高めるためにももっときっちりと描き出して欲しかった。

 「座敷童子だよね」立て続けのこの代物も異様な風体である。およそ聞いたことも見たことも無い、まさにグロテスク、というのを絵に描いたような輩だ。
 どう考えても座敷童子ではあるまい。

 「やめろよぉ」怪談、というよりはSFのような不思議譚。
 本当に世界か時間を移動してしまったかのような話だ。しかし、そうだとすると友達の一瞬の反応がおかしいものでもある。全て知っているかのようだからだ。あるいは、その彼がどちらかを超えられる超能力を持っているのだろうか。そしてそれが裏の人格か何かで、普段の彼は気付いていないとか。
 いずれにせよ、語り手としては一生を棒に振りかねない事件が有耶無耶に消えてしまい、助かった、と言えるのでは。

 「ナンダローネー」これもちゃんと意味を考えようとしてもどうにも難しい。
 と言うかどれ一つ取っても全く理解できない。無論説明も不可能。
 それが次々と繰り出されるのだから、もうあっけにとられる外無い。
 不条理の極みと言って良い凄い話だ。

 「びしょ濡れの訪問者」これも負けず劣らず謎ばかり。
 何となく宇宙人もしくはロボットのような印象のある男。ちょっとバグりかけた言動が面白い。しかし、その後にはこれまた奇妙としか言いようのない動物に乗って飛んでいるのだから更にとんでもない。

 「有機臭」何だか書き方が上手くないのか、人間関係が理解し辛く閉口した。
 ここで描かれている怪異自体はいずれも強烈なものでは無く、しかもどれにも関連性も見出せない。本文にも書かれているように、ちょっと不安になる、位のものだ。
 しかし、それが続いていくと精神的にはかなりやられててしまうだろう。
 後半何だか唐突に祟られた一族の話になり、ついていくのが難しい。
 最後に突然元夫の乾燥死のエピソードが書かれているけれど、これはテーマにも直結する凄い話なので、もっとしっかりと描いて欲しかった気が。

 何体か登場した謎の生き物はどれも全く類例の無さそうなものばかりで異彩を放っている。これだけでも大変面白かった。
 ただ、文章というか描き方に若干難があり、折角のネタがもう一つ活かされ切っていない、もしくはそれによって不可解感が増してしまう、という印象を受けた。

  それでも二冊続けて不条理系、というのは満足でもあり、ちょっと勿体ない気にもなる。

 また、あとがきに記されていて気付いた事ながら、作中の語り手を記号ではなく、仮名ながら普通の名字にしている。
 これは大賛成。
 英語頭文字など、特に「B本」などと書かれていると、本当は何という名なのか妙に意識してしまい気が殺がれる。
 自然だったために言われるまで気がつかなかったわけで、どうせ本名だなどとは全く思っていないのだから、皆この方式を是非取り入れて欲しい。
 内容以外に気持ちを向けさせて良いことなど一つも無い。

第五脳釘怪談posted with ヨメレバ朱雀門 出 竹書房 2020年11月27日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る