• 郷内心瞳/拝み屋怪談 幽魂の蔵

     毎度の郷内怪談。
     大作はもう流石に終了してしまい、その余韻とも言うべきものが幾つか登場する程度。
     枠物語も、登場人物が過去を引き継いではいるものの内容的には関係なく、しかもかなり弱い。あくまでも話を取り纏める、将に枠として機能させているに過ぎない。
     本編の怪談も、それなりに興味深い話はあったものの、これまでに比べると大分小粒、という印象。
     流石にそろそろネタ切れか。

     「お不動さん 禁忌の鯉」これは凄い。怪談そのものでは無く、著者の行動自体が。
     神社の池の鯉を捕まえてくる、というだけでもなかなか出来ないこと(やらないこと)ながら、それがばれないようにするために煮て食べてしまう、などとても出来そうに無い。
     流石に罰が当たらないかと考える方が怖い。
     そして、ヒーターも入れていないのに水槽の水が熱くなってしまうなど、とてもあり得ない。怪異としても結構なものだ。
     しかし、本来なら罰が当たるべきは著者自身の筈。腹いせのようにやられてしまった魚たちが気の毒でならない。

     「弁天さん」何だか良い話のようでありながら、実のところ、明らかに非合法の品が行方不明になり、それを無事見つけられた、という話。果たして喜んで良いものなのかどうか。
     ともあれ、刺青が話しかけてくる、というのは興味深い。
     何故本人に直接語りかけないのかは不思議だ。

     「誰なのか」突然現れていきなり会話に闖入して来た上に、自分の意見を押しつけようとし、それが叶わぬとみるやふて腐れて消えてしまうおばさん。
     割烹着姿というまさにテンプレートとも言える装いと言い、まるでコントのようだ。
     確かに、ここまで自然に入り込まれてしまうと、思わず受け入れてしまうものかもしれない。
     シンプルながら印象は強い一品。

     「その代償」この話も、とても真似できそうに無い。
     例え由縁が無かろうとも、人形に酷いことをする、というのも何だか夢見が悪そうで出来ない。しかも、それが叔母の形見となれば尚更。
     普通に捨てるのであれ躊躇われる。
     ここでは母親の態度もどうかと思う。それ程の品なら、何としてももらってこないようにすべきだった筈。
     これがどうやら一生かけた呪いになってしまったようだ、というのは因果応報でもあり、可哀想とは思えない。むしろちょっと溜飲が下がる。
     それにしても、この語り手、恋をするのもそれが上手くいくのも順調過ぎないか。
     数年毎に新しい彼女が出来(そうにな)る、というのは羨まし過ぎる。
     そういった意味でも、これは良い怪異だった。

     「夢ジャック」これは何とも奇妙であり、しかも相当に不気味な怪談。
     自分が死んでしまう夢を、それも様々に違うシチュエーションで体験してしまう、というのもきついものだ。
     しかも、明らかにそのことを知っているかのような男。
     本当の彼がこの夢を仕掛けているのだろうか。
     だとしたら、何故、そしてどのように。

     「耳の中」耳の中に座り込む小さな着物の女。これは気味が悪い。
     御祓いをして、いなくなってくれたのだろうか。

     「大歓迎」一人二人では無く五十人近い人数の霊、というのは珍しい。
     しかも霊が墓参りをしている、という倒錯したような状況。
     その彼らが満面の笑みで皆ちぎれんばかりに手を振ってくる、という図は想像するだけでかなり不気味。
     むしろ、語り手に事故を起こさせるために見せた幻覚、なのだろうか。

     「備品」ドアの前に佇む着物姿の女や隙間から入り込む黒髪の束など、起こっている怪異は典型的なパターンながら、仏教辞典を投げつけることでそれが治まる、というのは新発見。
     こんな部屋でしっかり眠れる、というのも著者だからこそ、であろう。

     「だから誰?」まさか同じネタがもう一度来るとは。
     相変わらず自分勝手な論を捲し立ててくる。
     このように会話が成立する霊、というのは意外に少ない。貴重な事例だ。

     「第一印象」郷内怪談の中に、奇才小田イ輔氏が登場してくるとは。
     今や個人的には好きな怪談作家のツートップなので。
     彼も東北とは、全く意識していなかった。
     怪異としても、小田氏らしい何とも不条理なもの。実際こういうことを体験してるからこその作風、なのだろうか。
     丸坊主、というのはまずイメージ通り。
     そこに何故かリーゼントが乗っかっていた、というのは想像すると思わず噴き出してしまいそう。しかも一度限りでは無く二年続けてだという。
     その現象は何だったのか。そして、何故終わってしまったのか。
     この謎はおそらく永遠に解けることはあるまい、残念ながら。

     「芋ロス」炊いていた御飯が消えてしまう。
     何とも不思議な事件だ。
     普通の御飯では無く、わざわざ用意した芋御飯だというから、勘違いやミスではあり無い。
     本当に、その御飯、一体どこにいってしまったのだろうか。
     以前読んだ話には、突如消えてしまったものが、何年も経って、思わぬところでひょっこり発見された、というものがあった気がする。そんなことも有り得るのかもしれない。

     「一九七五/〇八/二四」新しいカメラで撮影しているのに、何故か昔のものと覚しき写真が紛れ込んでいる。
     しかも、被写体は昔の自宅ながら、見ず知らずの気味の悪い婆さんが撮影されている、という。
     単に時間を超えた、という話でも無さそうで、不気味さが増している。

     「悪いものたち」息子の死は両親の死のせいで、と考えられなくもないけれど、三週間でそれぞれ逝ってしまう、というのは、偶然とは思い難い。あり得ない、というものでも無いとは言え。
     UFOとは関係なさそうだから、黒服の連中、というのはメン・イン・ブラックでは無さそう。
     死神的な存在が、一人では無く5人もまとまっているというのは新鮮だ。何か役割分担があるのだろうか。

     どちらかと言うと、後半に興味深いネタが多かった。
     こうして振り返ると、これだけ印象的な話がある、というのは有難いことではある。
     ただ、元々の強烈さを知っているだけに、全体に薄味になってきつつあるのが気にはなる。
     この後も、著者はかなりのペースで出版を続けており、きちんとクオリティを維持できているのかちょっと心配。

    拝み屋怪談 幽魂の蔵

    posted with ヨメレバ

    郷内 心瞳 KADOKAWA 2020年06月12日

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