中山市朗/怪談狩り 黄泉からのメッセージ

 このシリーズ、竹書房文庫では無いためしばらく忘れていたが先日再発見された。
 やはりきちんと出版順に読みたいので(続く場合もあるし)、今回購入したのは2年前、2018年のもの。
 ただ、今後きちんと買い進めていくべきか迷うようなレベルに留まってしまっていた。

 「新聞紙」自分の溺死事件をわざわざ新聞記事まで持ってきて知らせる男の子。律儀と言うか何と言うか。それでどうしたいのかまるで判らんし。
 霊というと何だか理外のもの、という印象が強く、このように何だか生真面目な印象の話はむしろ珍しい。事件もしっかりと裏付けられたようだし。

 「あと二回」怪異としては何だか可愛らしい、と言って良い程のもの。
 ただ、語り手とその母の両方におそらくほぼ同時に起きているのは不思議。
 そして何と言っても「赤ちゃんがでてきました」と伝える機械的な声、というのがツボに嵌まった。産まれましたじゃなくでてきました、っていうのも絶妙。

 「斎場跡」火葬炉の廃墟となると何があってもおかしくは無い、という気はする。
 それでも、強烈な熱風だけでなく地震のような山鳴りまで感じてしまう、というのは想像以上だ。しかも全員での体験だけによりリアル。

 「おい!」この世のものならぬ存在からの警告で事故を免れた、という話は時折あるけれど、これは警告自体がストレートで判り易い。
 何より、走っていた道自体があまりに危険な謎のもの、というのが妙に怖ろしかった。
 夜の闇の中で、底知れぬ崖の深さを目の当たりにしながら想像する、のも想像するだけで肝が冷える。

 「墓参り」産まれる前の子供が親を導いてくれる、という話は偶にある。しかし、それを子供がしっかりと記憶している、というのは聞いたことが無い。珍しい。

 「サブリミナル」これは興味深い、という意味とトンデモ的な意味と双方で気になる話。
 まず、撮影したフィルムの途中に一コマずつ挿入されている怪しい女の顔。これは怖い。
 しかも、そんなもの作れないとは言わないまでも相当に面倒な上に作る意味も無く誰かの仕業とも考え難い。
 しかし、一方でこれがサブリミナル効果をもたらした、という部分には疑問がある。
 現在では有名なサブリミナル実験もでっち上げであったと確認され、その効果については否定的だ。ましてや本編を上回るレベルで知覚される、というのではサブリミナルですらない。
 この話の主眼である要素に大きな疑義がある以上、手放しでこの話を信じることは到底出来ない。

 最後に挙げた怪しい作品に限らず、どうも怪談とは言えないようなものまで散見され、質に大きなばらつきがある。
 全体に小粒で印象も弱い。

 最早中山氏も過去の人か、と片付けようと一瞬思ったのだけれど、思い返してみれば新耳袋の頃からそれほど怖い怪談が多かったわけではなかった。まあ元々こんなものなのだろう。
 代表作は「山の怪談」。全然いわゆる怪談じゃ無いしね。そうそう、前回はその完結編と言えるものが載っていて久々に興奮させられたものだった。今回はそれも無いので。

怪談狩り 黄泉からのメッセージ(5)posted with ヨメレバ中山 市朗 KADOKAWA 2018年06月15日頃 楽天ブックスで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る