中山市朗/怪談狩り 禍々しい家

 何と2か月間、全く違う記事を貼り付けてしまっていた。吃驚。

 改めて本当の内容を以下に。

 このところ竹書房怪談文庫の新刊を追いかけるのに精一杯で(それすら追いつかなくなってしまった)、他所の書籍までとんと目が向けられていなかった。
 おそらくは年一回程度出されていそうな懐かしい中山市朗氏のこのシリーズも、これが三年前のものになる。

 それでもずっと短編ばかりだったので比較的長目の話も多く、じっくりと読めた。
 ただ、木原氏同様、彼も既に旬を過ぎてしまった感は否めない。加藤一氏も一緒だけど。
 しかし、この本はあの不朽の名作「山の牧場」の後日譚完結編が入っているだけでも存在価値は充分。感想は後程。

 「角部屋からの訪問者」典型的な姿とは言え、やはり四つん這いの白衣の女がうろつき廻る、というのはとんでもなく怖い。しかも、隣の住人、というわけでもなさそうで、むしろ隣人の死亡に関わっている可能性すらある。最早引っ越すしかあるまい。何かは気になるけど。

 「メリーさんの館」稲川氏の語る話、というのも聴いていないかまるっきり忘れてしまっているけれど(初期の名作のようだからまだ聴いていない頃かも)、有名な怪談の元になる話、というのは興味深い。しかも本来は大分県。あの県はちょっと不思議なところのあるエリアだからより相応しいと言えるかもしれない。
 強烈な怪異、と言うよりちょっと不思議な出来事が様々に次々と起こり続けていく、といういかにも稲川好みの話。彼が最後に入った光る部屋は一体どうなっていたのだろう。それとも本当に部屋がなくて外に落ちただけなのか。

 「メリーさんの館 後日譚」全く別の、しかも直接の体験談で非常に似た話が得られている、というのは貴重。ここでも二階の光の謎は解明されなかった。残念。
 さらにここでは一緒に入っていた筈の彼女が同行していなかった、というある種王道的ながら不思議な話もあって面白い。

 「ミサちゃんがいる」目に見えない存在とちゃんとコミュニケーションが取れる、というだけでも珍しい。しかも家族全員が経験している。
 特に興味深かったのは、家族の所在が判らなかったことで怒りを露わにしていること。
 死ぬと感情が無くなるとも言われている中、ここまで爆発させた、という話は聞いたことが無い。

 「異臭の通報」ゴミが詰められた奥で一人変死していた男性。一体どのようにしてこの事態が引き起こされたのか。気になって仕方が無いタイプの噺。

 「真っ暗にするとダメ」以前トイレのドアが閉まってしまうとそのまま異空間に放り出されてしまう、という話があって、とても記憶に残っている。
 ここでは単にノブが存在しなくなるだけで、明るくなりさえすれば問題ないようだからそう厳しいものでは無いけれど、何でこんなことが起こるのか、全く理解できない。
 不条理なことこの上ない。
 それ以外には変わったことは起きていないようだけれど、本当にこんな家によく住めるものだ。

 「ルームシェア」死後10日経つ人間が言葉少なとは言え、普通に会話をしている。複数の人間が対応しているので勘違いでも無い。
 さらに言えば、初夏というのに彼が腐乱することも無くそのまま、というのも不思議だ。

 「置屋」最初の怪異はそう強烈なものでは無い。しかし、それが行方不明事件を引き起こし、その後おかしなことになっていく。遭遇してから死ぬまで三か月、というのは何とも微妙だ。何故そんなにかかってしまうのだろう。
 この話はここでは語られていない謎が幾つもあり、それを想像すると一層怖くなる。

 「山の牧場 後日譚」これはもう懐かしい気持ちで読んでしまう。
 本編の粗筋など、もう完全に覚えるまで何度も読んだ内容なので全く不要だけれど、既に知らない人間も増えているだろうから仕方ないか。
 素人による印象判断だけで無く建築家まで確認したことで、やはりここの建物がおかしい、ということは判った。
 トイレが大量に現れたり無くなったりを繰り返しているのも妙だ。
 更には、敷地自体が崩落しつつある、というのも何だか幻の廃墟と化しつつあるようで怖い。
 ただ、どうも時折匂わされているところからすると、ここには裏社会が関わっているようだ。とすると、建物も元々とにかく好い加減で良いから建てて実績を残す、ということが大事だったのではないか。例えば何かの補助金搾取のためとか、マネーロンダリングのために。そう考えれば、使われておらずまともに機能しない建物、というのも有り得る。
 そして、文字や御札などは後に侵入した人間によるものである可能性も。
 その後用済みとなって所有権が点々とし、牧場をやろうとしたり潰れたり、を繰り返したのは、左程不思議ではない。明らかに辺鄙で行き難そうな場所らしいし、人気を博す、のはかなり難しそうだ。
 先日、ネット上で林の中に雑誌の切り抜きが一面に敷き詰められた謎の小屋、というのが紹介されていた。
 しかし、これも実際にはちゃんとそれを行っていた人間がおり、彼の中では意味のある行動だったようだ。第三者には理解不能と思えることでも、当事者としては不思議でも何でも無く止むなくそうなってしまっている、ということは世の中いくらもあるのだろう。
 ここもそんな場所の一つなのかもしれない、そう思いもした。
 ただ、ビジュアル的にもインパクトは限りなく、十年以上とても楽しませていただいたことは確か。個人的にはこれ以上の綺譚はまずあるまい、と言える。

 中山氏はこの牧場を残してくれただけでもレジェンドの名に値する。
 今回の本では強烈な印象を残すような話は無かったものの、それなりのクオリティは維持されており、それだけでも他のベテランよりはまだ期待できそう。
 山の牧場ネタに久々に触れられた快感を含め、買って良かった、と思える一冊になった。

怪談狩り 禍々しい家(4)posted with ヨメレバ中山 市朗 KADOKAWA 2017年06月17日頃 楽天ブックスで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る