我妻俊樹/忌印恐怖譚 くびはらい

 前回のはちょっと前の本だったので、新作としてはこれが久々の通常本。

 何だか妙な感じの話が多く、ちょっと小田イ輔のよう。
 個人的には結構楽しめた。

 「しっぽの話」後半はもう一つぴんと来ないので前半だけ評価する。
 とても霊とは思えない「人間的」な対応も珍しいし、何故本人であることを否定したのかも不思議。自分が死んでいることも自覚しているようだし。

 「遺族」怪談としてはぎりぎりかもしれないけれど、気味の悪さでは充分にいける。
 自分が住む部屋の前の住人の家族から一方的に送りつけられる謝罪の手紙。最悪の自殺、という結果に驚いた、と思ったら、それが全く謎の男、という予想外のオチ。一体何故こんなことになってしまったのだろうか。

 「総括」これも全く訳が判らない。声がしても姿が見えない、というだけなら、まあいつもいつもというのはちょっと不思議ながら偶々、ということも有り得る。
 しかし、公園に立錐の余地も無い程人が蝟集し、更には上に重なってもいる、という状況は明らかに普通では無い。というより現実にはあり得ない。
 ただ、これは霊現象というものでも無さそうだし異世界で解決できるものでも無い。
 前の話同様、こういった現象の起こるメカニズムまで謎という外ない。ただ、夫婦二人が目撃しているものでもある。

 「店」声がだんだんと遠離っていく怪異、というのは通例とは逆で面白い。
 体験者の言い様からすると、この食堂自体がこの世のものではないのかもしれない。そうでなければ、店に誰もいない、というのも不思議だとは言える。

 「猫のシール」これも妙な話。まるで海中に投棄されていたかのような変貌を遂げてしまう。店で忘れたことがきっかけになっているのだろうか。実は忘れたこと自体も怪異の一部なのか。ただ、現物を見ていないので何とも言えないながら、元手帳を見て轢かれた猫を連想する、というのもどうも発想に飛躍が有り過ぎ、という印象がある。それもまた一連の出来事、なのか。

 「裸足の町内会長」語り手には初老の男(町内会長?)に見えているモノが、人によっては馬に見えてしまう。奇っ怪と言う外無い。道端に馬がいる自体珍しいことだけれど。

 「肉顔」これも何が何だかどんな存在なのか不明としか言いようがない。顔を構成している肉は、家族が供給しているものなのだろうか。
 さり気なく家を建てた大工が何人も死んでいる、という事件性のある情報も。家族には問題が無さそうではあるけれど、それがまた何故なのか気になるところではある。
 無理とは知りつつ真相を知りたくて堪らない作品の一つ。

 「首で払う」アキラという男の精神に問題がある、という話なのかもしれない。
 しかし、いる筈のない従弟の入院、かなり離れた廃病院に真直向かっていって潜り込もうとする姿。怪談としての構成要素は目一杯盛り込まれていて、しかも面白い。
 稲川的な怪談であるとも言えそう。

 怪談の中の「怪しさ」を全開にしたような話が多かった。
 個別の感想にも書いたように、怖い、というより不気味、不思議、と感じるようなタイプ。ここでは挙げなかったものも含め、気になる話が結構あってまずまず満足。

忌印恐怖譚 くびはらいposted with ヨメレバ我妻 俊樹 竹書房 2020年06月27日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る