いたこ28号/憑依怪談 無縁仏

 今回は新作。

 これまで共著では時折登場していた著者の初単著。
 もう昔と言ってよい頃ながら、著者のいたこ28号氏とは知己の間柄なので、結構嬉しい。自分にそんな素直な感情があることを知ってちょっと驚いた。

 これまでに無い、知っている人の著作に対する感想、どうなるかと要らぬ心配をしてしまったけれど、いざ読んでみたら、そんな「忖度」など全く無用。
共著の際に目立ったかなり軽妙な作風の作品は意外と少なく、重厚な作品も含め読み応え充分だった。

 「鎮護」こういう土地に纏わる話となると、それがどこなのか、当然ながらとても気になって仕方ない。これも全く手掛かりも無く不明ながら色々と想像してしまう。
 それが引き起こした(可能性がある)災害を考えると、とても興味深い。
 まるで帝都物語のような話になっており、何か裏があるのでは、と邪推したくもなる。誰の仕業かも含め。
 ただ、こうした場所で特別な工事を行うに当たって、その一番「要」である要石の存在と扱いについて何も教えない、ということがあるのだろうか。そのために選ばれた会社なわけだし。

 「ごみやしき」王道の話ではあるものの、ゴミ屋敷に老婆、おかしなおばさん、複数の体験者、挙げ句に火災と焼け跡から井戸、道具立てはばっちり。適切な描写も相俟って、久々に怪談らしい読後感のある作品であった。この話でも怪異の由来が実に気になる。

 「黒電話」夢ネタではあるのだけれど、ここまで具体的且つそれが見事に的中している、というのはついぞ聞かない。こういう内容では、よくある偶然それらしい夢を見て、後の出来事によってそれが強く印象づけられ記憶してしまう、というのとも明らかに違う。
 最後のコールセンター、という部分は何だか無理矢理で要らなかった気がする。
 他に全く聞いたことが無い(からこそ面白い)ので、それが日常的に行われているとはとても考えられない。

 「くろいひと」繰り返し同じ動作をする霊、というのは時折聞くけれど、それが自分息づきこちらに向かってくる、というのは怖い。

 「革のソファー」怪異も不気味ながら、ソファーの中から見つかったものというのが何とも怖ろしい。ちょっと怪談では無くなるけれど。
 ただ、語り手(と社長)はこれでかなり儲けたわけで、それは羨ましい。

 「あの子」この話の裏には何か秘密が眠っていそうで、それがとても気になる。
 自分が懐かしいと思っていた記憶が実は現実のものでは無い、と知ることは相当の恐怖、不条理だと思う。その感覚を思うのは結構お気に入りかも。
 今後また何かが始まりそうでもあり、その際には母が知っている可能性もある真相まで行き着くことになるのだろうか。
 続報が待ち遠しい話でもある。

 「ガリッ」怪異に遭遇し、その後まもなく変死してしまう。しかも呑めないはずの酒を呑んだ状態で。一体どういうことなのだろう。やられ具合も確かに偶然とは思えない。
 また、確証のある話ではないながら、ママの見立では何かやらかしたのでは、と。その真相も気になるところ。

 「カレラハスデニイル」それが宇宙人かどうかはともかく、どのエピソードも珍妙で実に不思議。
 個人的にはまるでイソギンチャクやオジギソウのようにシュッと消えてしまう毛髪、というのが、毛に対する元々の関心の高さもプラスされてツボに嵌まった。

 「早坂君」いたこ氏と交流があった頃、この百物語の会には何回か参加したことがある。
 自分としては茗荷谷、という記憶しかないのだけれど、場所的にこの舞台と同じところかもしれない。残念ながら、当該の時ではなかったようだけれど。
 この話、最終的に全てが妄想なのでは、という疑いは残る。でも、話自体の気味の悪さはなかなかのものだ。早坂君の部屋の状況も凄いし、それが現実空間ではないのかも、というのも興味深い。

 「心霊写真」生徒、先生と多数の人間がはっきりと目撃している、というのは貴重だ。
 しかもよくある亡くなってしまった生徒が、というのではなく、校長先生が、しかも若い時の姿で登場してくる、というのは想定外。
 いたこ氏らしいおかしみのある作で見事に締められている。
 
満を持して、という感じで世に出た単著。
 存分に楽しめた。実はそう無いことだ。
 大変とは思うけれど、是非次回作も期待したい。

憑依怪談 無縁仏posted with ヨメレバいたこ28号 竹書房 2020年03月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る