籠 三蔵/方違怪談 現代雨月物語

 今回は新作。

 共著では読んだことがあるらしいけれど、単著としては初めての作家さん。
 残念ながら、明確な個性というものは感じられず、あまり印象には残らない。

 取材の経緯や怪談作家としての自分を前面に押し出している作品も結構ある。しかし、それが平山夢明氏や久田樹生氏などのように怪談作家として既に名が通っていたり、岩井志麻子氏や川奈まり子氏のように他ジャンルでも知名度は高い、という人のもので無いと何だかぴんと来ない。何となく背伸びしてしまっているようなむず痒い気分が引き起こされるだけである。

 「恐山奥の院」この話の主体部分は、著者の自意識過剰ぶりがここでも横溢するもので、特に面白いとは思わない。気になったのは、神仏の力を著者がやけに怖れていること。
 怪談書きということが罰当たりだから、と書かれてはいるものの、それはある種の供養になっているケースもあると思うし、そこまで恐怖することだろうか。何か別に怯えねばならない理由でもあるのか、と勘繰りたくなってしまう程のうろたえぶりだ。でなければ大げさに書いているだけか。

 「スコップ」体験者が最初に語っている通り厨子ごと、というのも珍しいけれど、ここではその内容の方がずっとぶっ飛んでいる。
 厨子を閉め忘れていた、という程度のことをしかも既に解決済みの事件をわざわざ苦情を言いに現れる、まるで会社の中間管理職のような細かさだ。しかもいざとなると手が使えないから病気を治すことも出来ない、と。まるでギリシャの神々のような人間臭さに笑ってしまう。
 扉閉め忘れ事件の際に代わりに閉めてくれた人のことを正確に伝えている、という辺り夢だから、と片付けられないことを証明している。

 「黒蟠虫」この本の中では一番の大ネタか。一体どんな因縁があるのか気になる。おそらくはこの一族皆に不幸が、と思うと気の毒にも思う。

 「イマジナリー」こちらは逆にシンプルな話ながら、偶然とはとても思えない状況だ。この件に元夫はどう関係しているのか。そして、彼の関係が続いていたらどうなっていたのだろうか。ただ、悪いことが起きる、というのは語り手の予感だけなので、何か起きたとも限らないのだけれど。

 「ありおんな」無数の蟻、というのもなかなか怖い情景の一つ。Uさんのところに蟻は出なくなったのだろうか。
 ただ、後半著者の語りが繰り返し出てくるのは余計にしか思えない。

 ここで挙げた話も無条件に面白い、というものでは無く、何かしらの留保付。
 何より、江戸時代から現代まで評価され続けている「雨月物語」の名を冠する、というのは大きく出ているけれど、現状大分名前負けしてしまっている、という印象しか無い。

方違異談 現代雨月物語posted with ヨメレバ籠 三蔵 竹書房 2020年04月27日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る