著者久々の単著。
最近出たベスト版でも記していたように人柄には疑問がありつつもそれなりの怪談を長く提供し続けてくれていた。
しかし、ついに何かが尽きたのかたまたまなのかは不明ながら、今回は全く見るべきところの無い一冊となり果てていた。
どこかで聞いたような既視感のあるネタばかり。
怖くなったり不気味さを感じたり嫌な気分になったり奇妙な世界に幻惑されたり意外さに驚かされたりといったことが一切無い。
体裁良くまとめられ、脱線や特異な文章などによる引っかかりも無い分余計に何も残らない。
やや無理矢理に気になる作品を挙げれば以下位。
「出る出る言う場所」廃病院にある謎の部屋。お誂え向きに神棚まで用意され、怪しいことこの上ない。しかも最初は存在していなかったようにも思えるし、出入り不可能な部屋の内側から御札が貼られている。怪異を見てしまったのも複数ということで信憑性は高くなる。
病院を再訪したら既に取り壊されていた、ということだけれど、それは半月間に取り壊された、ということなのだろうか。既に存在していない病院に入ってしまった、という話ではないのだろうか。
「占いと猫」確実に死を予言できる占い、というのは凄い。猫が身代わりになってくれる、というのも体験者の祖母の話含め時折あるけれど、猫好きとしては哀しくも有り難い話でもある。意外と犬が身代わり、という話は少ないので、猫は情が無い、というのも怪しいのかもしれない。
これまでに超重量級の怪談含め数多くの佳作を生み出してきた著者。それはベスト版でも実証されている。
過去はともかく、近年は一向に面白い作品を提供してくれない木原氏という例もあるけれど、まだ見限るには早いだろう。
ただ、どんな画家でも小説家でも競走馬でも、ピークというのは確実に存在している。
一度盛りを過ぎてしまったら、そこから再び輝くのは至難の業だ。
とりあえず次作がどんなものになるのか。
怪談作家は別に彼だけでは無い、正確に言えば数多咲き誇っているので特に期待はしないけれど、若干の興味は持ちつつ待ってみたい。
「忌」怖い話 小祥忌posted with ヨメレバ加藤 一 竹書房 2020年05月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る