黒木あるじ/全国怪談 オトリヨセ

 竹書房とは異なる、角川ホラー文庫から出された一冊。
 全都道府県をテーマに一つずつ、全47編が収められている。

 それなりに楽しめたし、印象的な話も結構あったけれど、全体としては何だか薄味な後口。

 「鰹節奇譚」何だか民話のような一編。
 ちょっと藁しべ長者をも思い出させる。
 怪異としては、ムロの中から声がした、というだけの他愛も無いもの。
 しかし、そこでの体験者の行動含め、起きたことどもの成り行きは、何だか偶然では片付けられない。
 兄さんが、というのはちょっと牽強付会が過ぎる気もするけれど、それを考えないと、辻褄が合わない気もする。
 体験者が若くして亡くなってしまった、というのは何だか切ない。

 「記念写真」怪談の王道華厳の滝ではあるけれど、ここまで凄いのはそうそうない。
 想像しただけでぞっとして鳥肌が立ってしまった。
 ただ、華厳の滝での自殺者は無数ではなさそう。
 あるいは、こういうスポットなので、他所の霊も集まってきてしまうのだろうか。

 「樹海三題」結んでおいた筈のテープが勝手にまとめられている、という物理的な仕打ちはやはり恐い。
 何かのアピールなのか、そうすることで語り手が迷ってしまうことを期待したのか。
 自分が歩き回っているすぐ後ろからついてきたのでは、と思うと尚更不気味さが増す。

 「夢の中の男」一見不条理ではあるけれど、直接自分とではなくとも、先祖の誰かが何か関係ある存在なのかもしれない。
 ただ、この時点で急に登場し、強烈な厄災を齎してしまっている、というのが怖ろしい。 人だけでなく動物にもかなりのことが起きてしまっている。偶然にしてはあまりにとんでもない。
 縁のない土地の上に海が見える、というのも不思議。まあ、あり得ないことではなさそうだけれど。
 ただ、気になるのは、夢の中なのに土地の漢字、しかも見たこともない妙な字が判っているのは何故なのか。
 頭の中にイメージが伝わってきたのだろうか。
 また、こんな特殊な地名なら、調べれば判りそうにも思うのだけれど。

 「駄洒落の罰」駄洒落を言った位で指をへし折られてしまうとは、ちょっと気の毒に感じてしまう。
 ただ、最後にお坊さんが語っていたように、仏罰などではない、と考えた方が納得がいく。神であればいろんなのがいるし、祟り神などもあるのであり得たかもしれないけれど。

 「シオキバ」先の「夢の中の男」でもそうだったように、関係者に不幸が相次ぐという話は時折あるけれど、皆同時に、というのは流石に聞かない。偶然とは思えない感、倍増である。
 更に、その事故自体がとても普通では起きない「仕置きのような」ものだった、というオチが更に恐い。

 「鳥居の石」こういう怪現象ものも好みだ。
 これまでにも石礫、位はあったけれど、一分程も続く石の雨、というのはもう立派な超常現象だ。
 誰の話だったのかはまるで覚えていないけれど、自転車に乗っていて振り向くと身の丈もあるような石の山が突如出現していた、というのを記憶している。確かあるお婆さんの若い頃のことだったような。
 それに負けないインパクトがある。
 やはり神さまに対してはやたらなことをしない方が良さそうだ。こいつらは怒らせると祟る。

 「鈴の鳴る餅」なんてことはない話ではあるし、だから何、というものでもあるのだけれど、不思議であることは間違いない。
 何より、ここで紹介されている「梅ヶ枝餅」が大好物である、ということもつい取り上げてしまった一因。
 全国の土産の中でも、絶品の一つだと思う。小麦を使ってもいないし。
 太宰府天満宮の参道には、それとは別に「宝満山」というこれまた最高の和菓子があるのだけれど、それはもう全く別の話、ということで。

 やはり、各県に纏わる、ということを縛りにしているため、そういった要素の入っていない階段は全て除外されてしまっている。
 なので、選択肢の幅が狭くなってしまっていると思われ、どうにも小粒の話ばかり。
 ここでコメントした作品も、左程強烈なものはない。

 この著者であれば、もっともっとディープな話を読ませてもらいたい、とつい願ってしまう。

全国怪談 オトリヨセ

posted with ヨメレバ

黒木 あるじ KADOKAWA 2014年09月25日頃

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