真白 圭/実話怪事記 怨み禍

 直前に読んだ本とほぼ同じ印象であった、残念ながら。

 怪異が小粒で怖くも不思議でも無いし、どうも恐怖のツボを外してしまっているようでもやもやする。
 えっ、これで終わり、というようなものもある。
 それでも、幾つかはそれなりに印象には残った。

 「代弁」怪談界では鬼門とも言われる「こっくりさん」もの。
 内容としては、これまでのものとは一線を画し、かなり怖ろしい。
 何しろ、周囲の人間の死期を次々と予言していってしまうのだから。
 しかも、それを関係ない第三者がさせられてしまった、というのも気の毒。
 更に、じっくり考えると、周りの面々、早死にし過ぎ、では。
 こんなに何人も若くして、悲惨な死に方をするものだろうか。
 単に死期を言い当てた、というより、その死を押しつけてしまった、という印象すら感じる。
 それに気がつくと一層怖くなった。

 「おこたと、おじさん」霊が積極的に挨拶をしてくる、というのは珍しい。
 しかも、どのように知ったのかは判らんけど、自宅に既に先回りしている。
 それが、炬燵に座り込んだおじさん、というのも何だか哀愁が漂ってきてよろしい。
 そんな庶民的な怪異、あまり聞いたことが無い。

 「定時後シガータイム」煙草を吸う霊だけ、というのならともかく、非常階段そのものが「あらざるもの」であったというのは不思議。
 それだけ壊すことなどあまり考え難い。
 一体どういうことなのだろう。気になる。

 「法則のはなし その二」統計的に確かめられているわけでも無く、気のせい、なのかもしれない。
 でも、もし遺体の頭が野次馬の方を見ていることが多い、というのが本当なら、結構怖い、その情景を想像するだけで。
 何だか八つ墓村のような印象すら覚えてしまって。

 「取り違え」語り手たちは、いったどこの清掃をさせられてしまったのだろうか。
 その後辿り着けなかった、ということは、故人が彼らを呼び寄せた、というのでも、別の場所に偶然行き着いてしまった、ということでも無いようだ。
 物理的にものはきちんと処分されているので、夢や幻でも無い。
 その場所に過去存在していた部屋、というのが論理的に一番蓋然性が高い気がする。
 問題は、そんなところに何故、どうやって呼び寄せたか、ではあるけれど。
 本来の依頼主は、ここの近くだったのだろうか。

 「さきおくりびと」一時的に事故を無かったことに出来る。
 一体どんな能力なのだろう。
 単純にタイムスリップさせたわけでも無さそうだ。
 事故による怪我だけが先送りされてしまっているように見える。
 この男、これまでにもそうやって何人もやってきたのでは、そう考えると尚更怖ろしい。

 「時刻表」最近再び話題になった「きさらぎ駅」のような話。
 来た列車に乗っていたら、どこに連れていかれてしまったのだろう。
 出来れば是非乗った後のこともレポートして欲しかった、それが可能なら。
 友人、だと思っていた男が、どうやらこの世のものでは無かったようだ、というのも奇妙なところ。
 ターゲットをその列車に連れ込むのが目的だったのだろうか。
 ただ、時刻表のあら探しが趣味、という人間などこの世にそういるわけでもないだろうし、初めから彼を狙った作戦だったのかもしれない。
 いわゆる「悪魔」のような存在だろうか。
 しかし、そう考えると、列車からぞろぞろ降りてきた人たち、というのは何なのか。
 ちょっとホラー小説テイストのある、何とも興味深い一品だった。

 こうして印象に残った話を拾って再読しても、やはり軽い話ばかり、という感は否めない。
 面白かった「時刻表」にしても、例に挙げた「きさらぎ駅」と比較してもちょっと物足りない。
 不思議なネタはそれなりに拾えているようだし、もう少し取材と演出次第でもっと惹き込まれるものに出来そうな気もするけれど。

実話怪事記 怨み禍posted with ヨメレバ真白 圭 竹書房 2021年04月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る