女性作家ではあるけれど、女流の作家さんに結構見られる気配や感覚重視な印象は無い。
しかし、肝心の怪異が小粒ばかり、というのは否めず。それなりに気になる作品はそれなりにはあったものの。
「傘」ある種の未来予知のようなお話。しかし、ここではそれが回避されている。
何かの警告だったのか。
「拝む」これは勿論無理とは承知しつつも、是非拝んでいた側に取材してみたい。
何故級に拝んだりしたのか。何が見えていたのか。
人は普通街中で突然拝み出したりしないものだし。
「くっきり」これはよく判らない話だ。
太ももを切って睡眠薬を飲んだという自殺未遂なのに、逝ってしまった二人が残したのは足首への手形。本当に一体何をしようとしていたのだろう。
友人が手形について知っていた、というのは単純に現場に到着した際に足首を見た、ということなのだろうか。これも何か変な感じ。
どうもこのネタには、書かれていない何か裏の話か別の話が隠れているような気がしてならない。そんな含みを感じる。
「石垣の家」冒頭から沖縄ぽい話だな、と思っていたら、やはりそうだった。
シーサーが何故島も違う別の家から移動してきていたのか。
しかも、それが奥さんの実家のものとは。
元から関係があった家系なのか何も説明が無いので不明ながら、もしたまたま出会って結婚した、ということなら、あまりに凄い偶然だ。
あるいは必然、なのか。
代々不具合が続いていた、ということだから、相当先祖の時代の話、というわけだ。
その家屋自体、昔から残っているものなのだろうか。
どうもこの話も、何だかピースがしっくりと嵌まらない違和感が残る。
「ボルゾイ婦人」故人が病気で寝込む家族の替わりに犬の散歩をしてあげる。
何とも心温まる話だ。
まあ、それで?、というものでもあるけれど。
「マタニティ」亡くなってしまった妊婦は、何のために体験者の周りに現れていたのだろうか。
特に何をすることも話をすることも無いので、害を与えようとしているのか好意を持っているのかすら判らない。
「真実」怪異というより、その背景の人間関係が不気味な、稲川怪談のような話。
恵美子、という女性は一体何者だったのだろう。そのほとんどが推測ばかりなので、実際のところは全く掴めない。
ただ、何となく気味悪く感じられてくるのは確か。
事件が起きる直前から姿をくらませてしまったのは何故なのか。
今はどこにいて、どうしているのだろう。
「ひとりで住む」いつの間にか、マンションに自分以外誰もいなくなってしまっている。
それだけでなく、向かいのアパートすら誰もいない。
そんなところに住んでいられる、というのはやはりおかしい。
それでも、自分のところは何ともないのに、というのならまだ判る。
この家自体も結構な事態が勃発している。それも繰り返して。
通常ならとても耐えられるものでは無い。
なのに、語り手はそれをまるで意に介してはいないようだ。
これはもう、何かはまるで不明ながら、この世ならぬ何者かに取り憑かれてしまっている、としか思えない。
ただ、更に不思議なのは、体調は回復してしまった、というところ。
王道であれば、どんどんと具合が悪くなる一方で最終的に御臨終、となるか、どうにか引っ越して事無きを得るか、となるものなのに。
ここの存在は、命を奪う気は無いのだろうか。何か気に入られてしまったのか。
因みに、他の家でもここと同じ事が起きていたのだろうか。それとも、全員が引っ越す位だからもっととんでもないことが起きていたのか。
その辺りを一軒でもよいから探れたらもっと面白かった気もする。
取材が悪いのか、何か書いてはいけない忌避事項があり、それを避けるためなのか、どうもどこかしらもやもやするものが残ってしまう話が幾つもある。
何だかぶっつりと終わってしまうものもある。
冒頭書いたように怪異がそれ程では無い上に、書きぶりも淡々としているので、一層恐怖からは遠くなってしまっている。
ここで取り上げたエピソードにしても、凄く怖い、というものは皆無。
どうにも不完全燃焼感ばかりが募る一冊となってしまった。
呪女怪談 滅魂posted with ヨメレバ牛抱 せん夏 竹書房 2021年05月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る