郷内心瞳/拝み屋怪談 怪談始末

 現役の拝み屋でありながら怪談作家でもある郷内心瞳氏。
 これまでは竹書房から出版されたものを読んで来たけれど、実は彼の出自はMF文庫だったようだ。
 そして、その第1作がこの本。
 ただし、今回はそれを角川ホラー文庫で再版したものを購入した。

 彼の著書は、竹書房でも通常の聞き語りによる怪談と自信の拝み屋業務から生じたドキュメンタリーのような怪談とが混じり合っている。
 そして、彼の通常怪談は「意外にも」想像以上にノーマルで、しかも結構目新しく面白いものが多い。
 それは、この第1作から既に変わらなかった。

 「花冷え」霊が現れるときにはその場の温度が低下する、という話は特にアメリカなどでは語られているようだけれど、ここまで極端、というのはあまり無いだろう。
 しかも、近くの人間が皆感じているようなので、気のせいでも無さそうだ。
 池の水上ででくるくると回る女の生首。ビジュアルを想像するとなかなか強烈。

 「雨の古本屋」店の中と外に全く同じ女が現れ、同時に消えてしまう。
 ありそうながら、これまで聞いたことがない話だ。
 こういうのは、何故なんだろう、ととても気になってしまうけれど、あちらの都合はこちらでは全く計り知れない。解明することは出来ないのだろうな。

 「パントマイム」ある特定の人だけが通過することの出来ない、見えない壁が存在する旅館。
 これまた興味深い物件だ。
 奥の部屋には、何が祀られているのだろうか、そして、何が禁忌になるのか。

 「水着とラーメン」とても霊とは思えない雰囲気でやりとりし、食事までしてしまう。
 それも珍しいけれど、食べ物がそのままその場に残っていた、というのが興味深い。
 まあ、考えてみれば当然といえば当然、なのだけれど。
 ここまでの念がある、というのは余程寒かったのだろうか。

 「磯料理」白昼夢のような出来事。まるで「世にも奇妙な物語」の一編ででもあるかのように見事な気味悪さ。
 こういう現象が何故起きるのか、何がこれを見せているのか、何とも気になる。

 「猫爆発」これまた超短編ながら、不条理感が半端ない。
 状況から見て実在の猫では無かったようだけれど、何故爆発したりするのだろう。
 こういうのは霊というより狐狸の類なのか。あるいは、過去に猫が殺られてしまうような事件があり、その記憶のようなものが再生されたのだろうか。

 「時計工場 陰・陽」心霊スポットを探検に来た少年が、何故か自分の姉の裸体を目撃してしまう。友人たちも見ているので、幻覚でもない。その時点で姉は入院していたけれど、亡くなったわけでもない。
 これも実に理解不能でその理由も原理も全く判らない。
 そして、それから長い時を経て、当の姉自身が、何故か四つん這いになりながら汚れた姿で動き回る自分自身を目撃してしまう。
 この土地と何か縁があるわけでも無いようで、どちらもどんな因果によるものなのか気になる。
 いわゆる霊体験、とは明らかに異質な怪談。
 地味ではあるけれど、個人的には好みだし、後を引く興味が尽きない。

 「西川君」どうもこの題名はダウンタウン松本のコント「西川君=TMネットワーク西川」を思い出してしまい、ストレートに話に入っていけなくなる。
 小さいうちに亡くなってしまった兄弟、特に双子の話、というのは時折ある。
 しかし、この事例のように、家族でも無い第三者が、生きている兄弟のことを亡くなってしまった彼だとずっと認識し続ける、というのは相当に不思議だ。
 ただ、ちょっと気になるのは、体育の授業など、男女別になる機会、というのはある筈。トイレで出会す、ということだって。
 そういう時が無かったのだろうか。あるいはその際には生きている方だと捉えられたのか。それならそれで、誰これ、という疑問が出てきそうな気もするけれど。

 「桜の君」素敵な妖精との出会い、というちょっといい話かと思わせてのどんでん返し。
 王道ではありつつも、実に怖ろしく、納得の一話。素晴らしい。
 自分でもきっと同じ行動をしてしまう気がするし、やはり人外のモノの心や行動は我々には予想もつかない。

 「冷たい花」自業自得、という言葉が見事に当て嵌まる話。
 興味深いのは、やはり女性の場合、裏切った相手本人に対してではなく、その相手に怨みが向かってしまうらしいこと。
 奥さんの精神的な問題では無い、と思えるのは、出没する女の特徴、というのもあるし、何より最初の花束と現在の生活から明らか。
 花束を手にした際、霜焼け、とあるのが妙に引っ掛かってしまったけれど、これは凍傷、ということだな。

 「相部屋」結局一番怖いところが語られていないので、何だかもやもやする。
 それにしても、この時同室を拒んだ家族は、一生このことを悔やみ続けることになるんだろう。
 ある意味最凶の怪談だ。

 「覚えがない」不条理が重なり、何だか混乱させられる。
 自分が行った廃墟での姿を何故か撮影されている。誰が撮ったのか皆目判らない。
 アングルは天井から。そんなところからどうやって撮影するというのか。
 その場所で寝た覚えもないのに、何故かそのシーンが写されている。
 そんなテープが、何故自分の家にあるのか。
 数年前の出来事なのに、何故十年以上開けていないような場所から出て来るのか。
 一体何モノがどんな目的で行った行為なのか。
 まあ、怪異にはそういった人間の行動原理からは理解できないようなことも平気で起きてしまうものではある。

 「人形写真」娘を撮影した筈の写真の顔が、何故か人形になっている。
 前の話と同じく、全く説明不能だけれど、我が身に起きたらとんでもなく怖い怪談。
 これからずっと娘のことが心配になってしまうだろうな、きっと。

 「手品師」これまた妙に歪んだ話で、実に気味が悪い。
 確かにラーメンを移し替えるだけなら手品かもしれない。
 しかし、その後の指の一件はどういうことなのだろう。この男は予言者のようなものなのだろうか。
 予言としては不明瞭で何の役にも立っていないので、本当に嫌な気分が増すだけの行為だ。

 「両面」事故は大分経ってから、ということだし、後ろに見えていた顔、というのがある種和尚の心の裏側を表しているような表情や仕草であり、後年物理的に首が捻曲がってしまうことの啓示、というものでは無い気がする。
 むしろ、飲酒事故で死んでしまうような性根が滲み出てきたもの、とみることも出来るだろう。
 それが何故語り手だけに見えてしまったのだろう。

 「桐島加奈江」と「キセキの石」シリーズは、この本の中核を占める連作。
 力のこもった力作でなかなか読み応えはある。
 ただ、残念ながら怪異の方向や程度が、自分の好みとはずれており、印象的ではあるけれど、これは面白い、と思えるには到らなかった。

 王道から不条理まで、幅広い怪談を取り上げながら、文章も適切で読みやすく話にすっと入っていける。
 何より、きちんと新しい怪談を世に生み出すのだ、という気概が一編一編から感じられて好ましい。
 この本の最後に軽く触れられている人形と花嫁の話、この次のMF文庫でしっかりと語られているらしい。
 次の機会には是非購入して読んでみたい。まだ販売されているかが微妙だけれど。
 MF文庫ものは、角川ホラー文庫からほとんど再版されているのに何故かこれだけはまだ未発売。やはり相当に良くないものなのだろうか。
 余計気になる。

拝み屋怪談 怪談始末posted with ヨメレバ郷内 心瞳 KADOKAWA 2018年07月24日頃