神沼三平太/実話怪談 吐気草

 怪異に出遭った者が命を落とすなど酷い目にあわされる話が多く、厭度は高い。
 勿論怪談本としては褒め言葉である。
 ただ、時折悪い意味で気になってしまう作品もあり、どうも素直に読み耽るとはいかなかった。
 それについては最後に。

 「パーカー」 まるでパーカーが呪いのビデオのようになって、自殺が連鎖していく。
 語り手の周りの人が皆逝ってしまった、というのは何とも哀しい。
 それもスタートは誰か別の女性から持ち込まれたもののようだけれど。
 次の人選はどのようになっているのか。語り手が逃れられた(ような)のは何故なのだろう。
 気になるのは、自殺して一週間も放っておかれたパーカーはとてもその後着ることなど無理だろう、ということ。
 これは同じブランド(さらには色もか)のパーカー、ということとも思えるけれど、季節外れの時期に買えるものだろうか。
 それとも、そこも怪異の一部で、いつの間にかパーカーも現れてきて、それを送っているのだろうか。まあ、普通に考えれば自殺する前に送っておかねばならないから、その時点で同じものではあり得ないわけだし。

 「淡水パール」 呪いの恐ろしさを改めて感じさせてくれる話。
 ただ、ちょっと気になる点も多い。
 まず、淡水パールと歯の区別が付かないものか、というところ。
 歯の方も削ってあったのかもしれないけれど、根本的に形や輝きが違い過ぎるように思う。
 また、ここで書かれている経過だけからみると、亜子さんが目を付けられるタイミングがおかしい。語り手が初めて(と思われる)話を聞いた時点で既にピアスは送られているからだ。
 しかも、そのエピソードでわざわざ語り手の心の声まで書いているけれど、真相から考えると、こんなことを思う筈がない。明らかにミスリードだ。
 その最後の下り。
 見事などんでん返し、と言いたいところではあるものの、そこまでも何だか妙に大袈裟な描写が続いており、止めがこれ、なので少々やり過ぎ、という印象も受けてしまう。

 「鬼の腕」 家に纏わる伝説の話。
 これも結末が思わせぶりではあるけれど、怖ろしくもある。どうなったのか気になって仕方ない。
 ただ、これも現状他に親戚が誰もおらず、娘だけだ、というのであれば、もしその「一族」が名字を継いでいることが条件なのであれば、いずれにせよ、その子の代で絶える可能性は高い、ということ。結婚したとしてもわざわざその姓を名乗るでもしない限り。
 まあ、選ばなかった場合、強制的に誰か二人が連れていかれてしまう、というパターンも充分考えられるけれど。

 「錆山」 いつの間にかどことも知れぬ道に迷い込んでしまう。人も車も、人工物も全く無いままずっと走り続けていたら、相当不安になってくるのが自然だ。
 そんなところに別の車のテールランプが見えてきたら、追いかけてしまうのは当然とも言える。
 それが奴の思う壺。奴、って誰かは知らんが。
 何台も犠牲になっている中で、途中で諦めてしまった、という粘りの無さが救いになった語り手。何が幸いするか判らないものだ。
 しかし、この話にも大きな不審点が。
 この話、神戸の話だそうだから、間違いなく日本国内。
 そこで、仮にも事故で亡くなった人が出たとして、それが判っていて回収しない、なんてことがある筈がない。
 この土地の持ち主が警察に届けていない、という可能性はあるにしても、そうなると彼が既に違法な上に、人道的にもどうか、という話になってしまう。
 ドライバーの家族・親族や会社も捜しているだろう。
 そう考えると、この一言によってこの話の信憑性は著しく低くなってしまうと言わざるを得ない。
 この本に頻発する出来過ぎ感、の最たる一例。

 「大掃除」 この話も急に他とは語り口が変わる。登場人物のキャラクターも特異だ。
 とは言え、内容は神社に収められている忌み物ネタ。「ひぐらしのなく頃に」好きとしては見逃せない。
 ただ、ここではそのもの自体ははっきりとは描かれていない。鏡かも、という程度で。
 それでも、その力は6人もの命を奪ってしまうというのだから強烈だ。
 何だか余計なやり取りなどに力が入ってしまっていて、肝心の怪異やその結果などはやけにあっさりと書かれていて、妙にバランスが悪い印象でもある。

 「禍跡」 またしても家の下に墓石が(物忌異談「家の中の墓」参照)。しかも今回は礎石にしてしまっている、という。
 言わば墓を踏みつけ、それに家の重さをずしりとかけてしまっているわけで、罰当たりなことこの上ない。
 ただ、そんな物件であれば不動産会社にキャンセルもしくは買取を迫っても問題ない案件なのでは。
 ここでも結末が何とも悲惨。ほんとろくな話が無いな。
 不謹慎だけど、これも批難しているのではない、というより真逆だ。

 「二本取り」 誰とどうやって契約したのかは不明ながら、父が悪魔的な存在と交わしてしまった約束の為に、自らも代償を払う羽目になってしまうなんて。
 実にやり切れない。
 しかも、いつどれだけやられてしまうのかどこまでも判らない、というのが一層きつい。
 霊能者と言えど、神を払うことはそうできまい。悪魔だって神の一種、とも言えるわけだし。

 「廃病院」 これまでに無く気さくな霊たち。これほどの方達はあまり聞いたことが無い。
 廃墟探検に行って‥‥、という話は数あれど、ここまではっきりと怪異に遭遇し、しかもコミュニケーションを取り、映画のようなアクションを行って、というのはこれもまず無い。
 そして、ここでも少なくとも3人、もしくは最大5人全員が死去、という最期。
 あとがきによると、話の語り手も連絡がつかなくなってしまっているそうなので、その安否も気になる。
 しかし、婦長に出会したことで何故死に到ってしまうのだろう。あるいは意外と話をした二人が曲者なのか。

 文体にばらつきがあって一定しない。
 中には、何だかやけにドラマティックな展開や感傷的な語り口で、妙に胡散臭く感じてしまうものも少なくない。
 特に後半の数話は、続けて友人との話で語り手以外の皆が亡くなってしまって、というオチばかりなのでまたか、という気分になってしまう。構成が宜しくない。

 その代わり、その分話に重みは加わっており、読み応えがある一冊ではあった。
 妙に軽いばかりで何も残らない本よりは遙かに有難い。

実話怪談 吐気草posted with ヨメレバ神沼 三平太 竹書房 2021年02月27日頃