高田公太:編/青森怪談 弘前乃怪

 これから3作程続く、御当地怪談本。
 残念ながら、印象深いものは無かった。
 その幕開けとしての「青森怪談」。
 中には民話ぽいものもあるけれど、事の起きているのが県内、というだけで、この地域だからこそ、という要素はあまり感じられなかった。
 気になる話もごく少ない。

 「防犯カメラ」全く誰も何も見えないのに、閂が引かれ扉が開いていく。
 これ、霊が映っているよりよっぽど怖い。見えないだけで、霊の仕業なのだろうか。
 それとも‥‥。

 「コン!」ハートウォーミングな話のように見えて、終わってみると何だかぞっとする大作。
 しかも、霊の行動がこれまたユニーク。
 電話は掛けられる(しかもちゃんと自宅の回線から正式に)けれど、声は一切出せない。打撃音は出せて、意思表示が可能。
 姿は見せられないけれど、誰かに乗り移ることは可能。でも、乗り移ってもそれを明かすことも全く出来ない。他人を通しても何か言いたいことを言う、事は出来ないようだ。
 子供を欲しい、という意志はあり、卵子は別人のものなのに、自分に似せた子を生み出すことが出来る。
 何とも不思議だ。
 しかもその子供は育児放棄され、父親すら面倒を見ルでもなく祖父母任せになってしまっている。それが本当に幸せなのか。
 まあ、霊というものには既に情など無く、ただ生前に残した情念だけが原動力となって動いている、という可能性もあるので、そのせいかもしれない。
 ただ、上に挙げた論理的矛盾は結構深刻なもので、この話の信憑性自体に疑念を抱かずにはいられない、のもまた確か。
 もしそうなら、ただのいい加減な話(物語としてはかなり粗く出来が良いとは言えない)としか言えなくなるけれど、果たして。

 上に挙げた二編とて、怖いか、と言われたらそうでもない。
 やはり東北人の人の良さが悪い意味で出てしまったのだろうか。
 それとも、北の大地ではあの世の者たちも酷い悪さをしないものなのか。
 数人の共著であり、全体に力不足、感もあった。
 いずれにせよ、残念な一冊ではあった。

青森怪談 弘前乃怪posted with ヨメレバ高田 公太/鉄爺 竹書房 2021年02月27日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る