前回はあまり惹かれる怪談が無かったこの「最恐戦」。
全く期待せず読み出したところ、予選会ではまあ予想通りの状況だったものの、ファイナルに入ってからは意外と面白い。
怖い、というよりも奇妙な話が多く、なかなか。
「赤い夢」夢の話なのでどうかな、というところもあるのだけれど、全く別の方から同じ「真っ赤な」世界の夢の話を立て続けに聞くのは偶然とも思えない。しかも夢の展開までそっくり、というのは何とも。
これまでそんな赤一色の夢、に関する話を聞いたことは無いけれど、単体で捉えればあくまでも夢に過ぎない、とも言えるし、起きたら直ぐ忘れてしまうことも多い、というかむしろそれが普通。
丁寧に探っていけば、類例を集めることが出来るのかもしれない。やる気は無いけど。
「最後の電話」殺されてしまった無念さを電話で伝えてくる被害者。
その思いを想像すると、怖いと言うよりも共感してしまう。
ただ、それを伝える相手は葬儀場の職員じゃ無いだろう、とも思う。
それとも、警察を含めた各方面に電話していて、それで再捜査されることにもなったのだろうか。どっちにしろお門違いには変わりないものの。
「遭ってしまう人」語り手と社長二人が目撃しただけでなく会話まで交わした相手が実在しない人らしい、というのは不思議。
勿論、友人にも隠していた本当の家族、という可能性もある、というかそれが事実、なのだろうけれど、もしこの世の人間ではないのだとしたら、と想像すると結構怖い。
その日常的な存在感もだし、実はどんな存在で、佐藤さんがどうなってしまったのか、と考えることも。
「幽霊に助けられた男」実際には悲惨な出来事があった場所なのに、記憶まで捩曲げられて呼び寄せられている。
メモという物理的な「もの」を残しているのも凄い。
メモが裏に続いていてそれを読むと真逆の意味になってしまう、というのも劇的ではあるけれど、夫の意識を操作されているらしき反応も含めて、何だかちょっと出来過ぎな感もある。まあ、ほんとなら仕方のないことではあるのだけれど。
話の締め方も何だか取って付けたようで不要だと思う。むしろその後どうしているか、実際のところが知りたい。
「訳ありのバイト」決勝戦、しかも幽賞(変換でこの字がいきなり出てきたのは流石)作品に相応しい大作。怪談としても面白かった。
これまでの瑕疵物件などとは格が違うレベルの「ヤバイ」部屋。そういったものが存在しているかも、という話も興味深いし、それと裏社会との繋がりも気になる。
肝心の一晩に何が起こったのか、それを知り得ないのは残念でならない。もしかすると知るだけで障りがあるのかもしれないけど。
それでも、いきなり自分の手を刻み出す、という行動はそれだけで充分に怖ろしい。
しかも、迎えに行っただけの不動産屋まで同じ振舞をしてしまうのだから強烈だ。
ただ、同僚はその場で消えてしまったのに、体験者は取り敢えず生き残れたのは何故なのだろう。
「いもうと」次第に容貌が似てきてしまう(おそらくは意識も乗っ取ってしまう)呪いも不気味ではあるけれど、何と言ってもクライマックスシーンを頭の中で思い描くと、とんでもなく怖ろしい。
奥さんを含めた怪異の話をしているその後にずっと立ち続ける当の奥さん。その存在に全く気付けない体験者。その状況を目の当たりにし、写真について意見を求められる語り手の心持ち。完全にホラー映画の1シーンだ。
その奥さんも直ぐに消されてしまったのが何とも悲しい。
「拒まれる」何度乗り降りしても目的地の駅で降りることが出来ない。正確にはその駅に着いたことを知覚できない。
なんとも珍しい事例。
一体何者が行ったことなのか。彼女を守ろうとしての行動なのか。彼女を守ることはしても、火事を防ごうとはしないのか。なぜ夜中に電話で会話できたのか。
謎は多い。
「代講依頼」これは何だか妙な不条理怪談。
存在しない筈の場所への代講依頼の電話が入り、見知らぬ教師にそれを依頼する。
それ自体がなんとも理解不能なのに、本来なら自分が通勤出来る状況では無かったにも関わらず、難なく出勤していて、しかもどうやって来たかも覚えていない。
まあ、通常通りであれば意識せずにきてしまった、ということもあり得るとは思う。しかし、実際には何かしらの迂回や別ルートを取らざるを得なかったのだとすると、そんなイレギュラーな緊急事態を覚えていない、ということは有り得ない。
この日、語り手に何が起こったのだろう。その後は特に何もなかったのだろうか。
本来ならもっとじっくりと書いても良い話だったように思う。千文字という字数制限が仇となってしまった。
「最恐」という印象は全く無いけれど、不思議譚としての怪談は充分に堪能出来た。
前回に引き続き、「怪談本は読んでみなければ判らない」ことを改めて痛感させられた一作。
怪談最恐戦2020posted with ヨメレバ怪談最恐戦実行委員会 竹書房 2021年01月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る