ゴミのような記憶力でも、うっすらと記憶している作品が多かった。
それだけ印象に残る力がある、ということだろう。
内容までは全く覚えていないので、相変わらず新鮮に読めたけれど、そのためどれが新作なのか、何らかの加筆修正があるのかなどについてはまるっきり判らない(最後には表記されていたけれど、読んでいる間はそちらを見ることも無し)。
旧作を引っ張り出してくることも環境的に叶わないため、確認も出来ない。
既に感想を書いた作品もあるとは思うけれど、あくまでも今回のレビュー、ということで、以前のものを見直すことも無く素直に書いていきたい。矛盾した内容だったとしても、それぞれの時点での正直な思いとして寛恕願いたい。
「占師」占いは知識と技術に基づく理論的なものだ、というのは興味深いところ。確かに他にも統計学的なものだ、という話も聞いたことがあるし、本来は怪しいものでは無いのかもしれない。だからと言って信じる気は毛頭無いけれど。
ただ、運命というものは逆らうことが出来ないと思い知らされる事件はとんでもなく強烈だ。叔母が何故早くに亡くなってしまったのかも気になる。
「一連」それぞれの話は凄いものでは無い。しかし、これだけの話が全て同じところのものとなると違って見えてくる。
さらに不思議なのは、怪異の内容がどれも全く違うものであること。何か特定の事件とか因縁というわけでは無さそうだ。一連の怪異の原因は何なのか、知りたくて仕方ない。
「訃告」よくある虫の知らせ系でありながら、マジック文字という物理的な事象が起きている上に、関係が希薄なのになぜ、という意外性もある。一見使い古された、と思えるネタでも、面白い作品は有り得るのだ、ということを感じられたという意味でも印象深い。
「予告」明日来ますと言われてそのまま二度と来ない、というのは何だかおかしい(笑える、という意味で)。一方でそれによって恐怖がずっと続いてしまうことにもなるわけで、そういう意味では結構怖い話でもある。
「鬼祭」死んでから一か月、村の皆がその子の姿を目撃し続けたわけで、結構特異な事例だ。
そして、殺人事件についても全く解決しなかったのだろうか。田舎なら何か判りそうなものなのに。死後一か月の死体が外傷も判るような状態で残っているものなのかについての疑問も残る。
「暴霊」先の話同様、既に死んでしまった人間・車と遭遇し喧嘩して、車に傷まで付けられたという。しかも語り手だけで無く子どもも一緒に目撃している。
最後に付け加えられた事件の話は余計な気がする。特に後者は関連性も全く無いし。近ければ何でも良い、というものでは無い。
「侵入」折角の防壁を排除してしまったが為に何者かを導き入れてしまったようだ。
怪異そのものよりも、扉の郵便受けを外していく行程、そしてそれに伴う感情の変化を丹念に描写している。それが功を奏しており、独特な読後感のある作品となっている。
本来的な怪現象は畳み掛けるようにコンパクトにまとめられてしまっているけれど、それがかえって語り手がそこには踏み込みたくない、偶然と思いたい、という心情を上手く表現していて効果的。
怪異そのものとしては王道とも言えるネタながら、語り口が新鮮な佳品であった。
小田イ輔のように奇天烈では無く、西浦和也や雨宮淳司のようにじっくり読ませるのでも無い。言わば王道の作品作りを行いながら、マンネリに陥ることも無い。
それはそれで、なかなか出来ることではない。
流石ベテランの味、というものを堪能させてもらった。
元投稿:2020年4月頃
怪談実話傑作選 磔posted with ヨメレバ黒木 あるじ 竹書房 2020年01月29日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る