お馴染み独特の味を持つ小田イ輔の、自選作品集とのこと。
しかし、相変わらずほとんど話を覚えていないので、今回もまあ何とも新鮮に読み進めることが出来た。
感想についても内容はおろかその作品について書いたかどうかさえもまるっきり記憶にないので、これはこれとして記しておく。前と全く違う意見だったとしても、それぞれがその時に正直感じたこと思った内容なのであしからず。
「滑り台にて」お気に入りのジャンルの一つ、入れ替わりもの。
ただ、この話では単なる入れ替わりに留まらず、弟との記憶の齟齬、というのも存在している。
もしかすると、「違うお母さん」のもとへ行ったタイミングで別の世界へと飛び越えてしまった、異世界ものなのかもしれない。それなら納得出来る。
「御祀り」語り手が訴えるように、明らかに鎮め方は承知していたようだし、それに何も問題が無いのであれば自分が持っている内に行うのが当然。
それをしなかった、もしくは出来なかったなりの理由があることは間違いない。まあ、彼が祠をお参りしようとしないのは、もう関係ないのだから当たり前、とは思うけれど。 語り手が何故そこから離れることが出来ないと感じているのかも含め、事の真相がめちゃ気になるのは勿論だ。
「自殺意思」語り手が自殺を考えていたから他の人や父親が導かれてしまったのか、彼自身が何か操られるような状況だったのか。何とも言えないけれど、偶然では片付けられないようには感じる。父親の件など、結構怖い。
ただ、自分も、と考えるのはやはり父親の自殺未遂に自分が責任があるとは考えたくなくて、無意識にそう捉えてしまっているのかもしれない。人間の心理というのは興味深い。
「幽霊だったってことに」の彼女が妄想なのか否か。情報をあえて制限されてしまっているので、こちらは判断が付かない。ただ、ここでの記述を信頼するなら、彼女のマンションがもぬけの殻になっていた、のであれば直前まで住んでいた可能性はある気がする。
墓の写真については、誰か第三者が一緒だった、他の墓の上にカメラを置いて撮った、などの可能性もあり、必ずしも怪異とは限らない。ここを外してしまうと怪談では無くなってしまうのだけれど。
「魚と猿の魚」患者が亡くなってしまうきっかけもしくは兆しとなる何かが存在して、話の主がついにそれに遭遇してしまって‥‥、という話は聞くことがあるけれど、それを見事に裏切られた、何とも悲しい結末。そういう何かが患者の枠を越えて作用する、というのも貴重な話だ。
「十八年目の亀」事象としては亀が消えてしまった、というだけのものではある。でも異世界ものを想像させるところがあるし、語られることが無かった両親の失踪との関連を想像すると実に怖い。何故18年も経ってから突然戻ってきたのかも気になる。その時の異音、一体何なのだろう。
「彼女の良い場所」事故物件が皆ハッピーになれる場合も有り得るのだと知った。世の中何があるか本当に判らない。
自殺のあった場所を温かく感じる、というのがどういうメカニズムなのか、気になるところだ。
小田イ輔の怪談というともっと強烈なもしくは奇怪なものが多かったし、それが持ち味でもあった。
しかし、ここで選ばれている作品はどれもかなり地味なもの。それでも印象に残る作品が多いのは流石ながら、どうも勝手が違う印象だ。
これに限らずクリエイターが作り出すもの全般に作者のお気に入りと受け手の評価が一致していない、というのは意外と多いものだ。面白い。
元投稿:2020年2月頃
小田イ輔 実話怪談自選集 魔穴posted with ヨメレバ小田 イ輔 竹書房 2019年12月27日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る