昔は年に一回、その後二年に一回程度から数年に一回へと次第に間隔が空いていき、2013年を最後に新作がなくなり、読めなくなってしまっていたこの著者の作品。
それでも大抵夏頃に発売になるのでその時期には検索をかけてみたりしては落胆して、を繰り返していた。
その後、2018年から竹書房の共著作品に登場してしたらしいのだけれど、多数作家の共著本、ほとんど作者を気にしていないので全く気づかなかった。
それが本当に久々に単著を、しかも竹書房から発売という驚き。
懐かしさを噛み締めつつ読ませていただき、良くも悪くもさたな怪談の真髄を見る思いがした。
最近ではプロットだけ、のような硬質で簡潔な怪談が好まれる中、この著者の作品は一つ一つが比較的長く、とにかく饒舌。
そこに昭和の匂いを感じつつも、独特な語り口は読み手を惹き込む力をも持っている。 ただ、時にはそれが演出過多に感じられたり、ものによっては胡散臭く思わせてしまうような場合もあるのが、改めて認識できた。やはりちょっと古いタイプではあるのだ。
「外付け怪談」は別の好みであるトマソン物件とも呼べるものが舞台。
無意味にしか思えない怪談と開く筈のないドア。それが開いてしまう恐怖、というのはなかなかのものだ。
ただ、この話あくまでも語り手が更に聞いた話、というものであり、その管理人、というのがそこまで詳細に語るものか、と思えてしまう程まさに饒舌に語っているので、ちょっと怪しく感じてしまうのも確か。
また、この語り手、果たして一生ここに立ち寄らずにいられるのだろうか。
この中でもちらりと触れられている「青ひげ」の物語のように、一度魅入られてしまったらいつかは禁断の扉を開けてしまいたくなる、それが人間というものだ。ちなみに、このようにさまざまな知識をさり気なく作品中に盛り込んでくるのもこの著者の特質である。その分作品に深みが増す。
「上司の背中」魔に取り憑かれた人間が失踪する、という話は時折ある。
しかし、ここでは全くの密室から忽然と姿を消してしまっている。一体何が起こったのか、何とも気になって仕方がない。
「何もかもが、ふつう」空き室物件を見に行ったらそこに‥‥、というネタはむしろ王道と言って良い位。
しかしながら、これ程に具体的な「ブツ」が登場してくる話など聞いたことが無い。床全体に拡がる皮膚片、部屋全体にとぐろを巻く髪の毛、などもうどんな状況であれ遭遇したら卒倒ものである。ある意味とても貴重な体験を出来たと言えそうだ。
「セミの味がする」怪談としてはかなり異色ではあるけれど、確かに怪異と言える事態は起きている。ここで書かれている限りでは特に由来も因果もなく、しかも徐々にセミを食べている感触や味に襲われていき、ついにはその姿まで現れて来てしまう。自分であれば正気を保てている自信が無い。ある種とんでもなく怖い話だ。
「あとがき」ここに書かれている小咄もとても興味深い。
先の「上司の背中」同様に住人が消えてしまう、という事件がしかも3回も続いてしまう。どう考えても尋常では無い。無理とは思いつつも、もっともっと詳細を知りたいし是非その行方など含めて追究して欲しいところだ。
一方で「整理屋始末」などは語り手が判らない。当人以外は絶対に語れないような話ではあるし、当人だって明らかな犯罪、語ることなどあるだろうか。しかも現時点ではアルコール依存症にもなっている様子。話など聞けなさそうだし、聞けたとしてその語るところはあまり信憑性は無い。一体誰がどう語ったものなのだろう。
こういった作品を採用してしまうと、全体も素直に信じられなくなってしまう。
怪しいものであれば取り上げるべきでは無いし、欠けているところがあったとして、創作の領域に入ってしまう程付け加えるべきでは無い。
以前ならともかく、昨今においてはもう少し節度あるものが求められている。
一時代昔のテイストを感じる部分はあるものの、やはり著者ならではの読み応えは確かにある。
久々に接することが出来たのは嬉しかった。
今後も時折は読んでいきたい。
ちなみにこの著者、ずっと何とはなしに女性だとばかり思っていたのだけれど、Twitterなど拝見するに男性なのだろうか。
まあ、元々中性的、と言うか特に性別を意識させるような作風、内容でも無いのでどうであれ全く問題は無いのだけれど、ちょっと気になってしまうところではあった。
元投稿:2020年1月頃?
純粋怪談 惨事現場異話posted with ヨメレバさたなきあ 竹書房 2019年11月29日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る