鈴堂雲雀・三雲 央・高田公太/恐怖箱 憑依

 これは既に結構読んで来た手練れの三人衆。
 どちらかと言うと一つ一つの話は長く、じっくりと語り込んでいる。

 「特技」鏡に姿が映らなくなる、という話は初めてでは無いものの、それを誰でも確認できる、というのは貴重だ。
 現状これだけなので安心しているようだけれど、こうした類のものは次第にエスカレートしていくケースも多い。いつまでも安心安全、とは限らないだろう。

 「オールドジャージ」確かにまずどれだけ新しそうだからといってゴミ捨て場にあるジャージを拾ってくる、ということ自体がおかしい。
 しかもそれはぼろぼろの使い古しが何故か新品に見えてしまっていた、という。
 生命に対する執着がジャージに宿ってしまい、人を引き寄せる吸引力を持ってしまったのかもしれない。それでどうなる、というものでも無いのに。
 ただ、奥さんの部屋に現われた状況、というのは逆になっていてこれまた奇妙。
 そこにいたのが本当に語り手だったのかなど謎は膨らむ。でも旦那さんの顔や風貌は間違えないだろうしなあ。

 「♪なぁ~ったげな、なったげな」題名の入力が面倒臭い。
 明確な怪異、というのはそれ程無いのだけれど、何だか恐ろしい。
 語り手夫婦の置かれていた状況自体が特殊で暗さを感じさせるので、それに拠るところもあるだろう。
 読後感が何とも寂しいのも印象的だ。

 「焼敗」体験者の仕事的に身につまされるものがある。
 現象としては何だかコミカルでもあるものの、こんなことをされては溜まらない。
 こうした事件では、この盾の由来がどうしても知りたくはなる。
 ただ、この話の成り行きでは、もう真相に辿り着くことは不可能、と言わざるを得ない。残念だ。

 「繋がる先は」怪異よりも、まず今の若者のあまりに厳しい労働環境が悲惨でならない。 この黒い靄とは一体何なのか。どうやら新興宗教絡みらしい、という推測は出来るものの、その正体も目的も分からない。
 それが語り手のところに来ていたのも不思議だし、他の友人のように急死するでもなく体調が悪くなるだけ、というのも妙ではある。
 そういった齟齬が気になり、ちょっと居心地が悪い話でもあった。 

 「待っている」のような話は大好物。
 この水溜まりはどこに繋がっているのだろうか。
 しかも、意思を持って飲み込むような様子を見せたり、「カッちゃん」の靴を少しずつ吐き出したり、とただどこか別の空間・世界に繋がっているだけの存在でも無さそうだ。 妖怪のようなものなのだろうか。

 「秘めたる想い」確かに恨みを晴らすなら、一番は生かさず殺さず、長い時間辛い思いをさせた方がより効果的だ。流石判ってらっしゃる。
 ただ、いじめを止めるのは簡単だろうけれど、それを起こさせるのはどうやっているのだろう。

 「狂依存」生きているうちも死んでからも酷い仕打ちを与え続ける親。あまりに惨い。 虐待やDVなどを受けていた人が後に自分でもその加害者になってしまったり、同じような相手を選んでしまう、という話は良く聞くけれど、その理由としてこうしたこともあるのではないか、と思わせてしまうような生々しい印象があった。

 「兆し」では、代々あったという脇指が、何故この時急に行動を起こし始めたのか。
 しかも、手放そうとした両親の死はともかく、購入してきた叔父夫婦やその後持っていってしまった親戚など、その後は所持するだけで間もなく命を落としてしまう。
 逆に狙われている、という語り手には大事はなく叔父夫婦の家では傍らに衝き立つことも無い。
 どうも怪異が不可解で辻褄が合わない。厭な話であり読み応えはあったものの、どうももやもやするものも残ってしまった。

 元々執筆本数が多いとは言え、こうして挙げたものを確認すると、ほとんどが鈴堂雲雀作。ちょっと理に適わないところはあっても、久田樹生流の重い話を集める力はたいしたものだ。後半、どんどんとこちらの心まで深い水底に澱んでいくかのような沈みっぷりであった。
 同じ三人合作ながら、「怨呪」とは読後感が全く別物。これなら金を出しただけの甲斐はある。

元投稿:2016年1~6月頃?

恐怖箱憑依posted with ヨメレバ鈴堂雲雀/三雲央 竹書房 2015年09月 楽天ブックスで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る