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静かな潜伏期

 この最初の発症が起きた時点では、アレルギーに関する知識は全く無かった。
 だから、これがアレルギーだとすら思ってはいなかった。
 旅に行ったことでの疲れから出た一過性のもの、と思ってしまったのだ。
 旅に出る際には夜行バスで行ったり早朝に起きて出掛けたりするし(この時がどちらだったかはもう覚えていない)、一日中文字通り走り回っているので、夕方にはもうかなり疲労の極に達しているからだ。大抵食事もろくにしないし。

 おおよそこの頃に花粉症も発症しているのだけれど、これは当時結構な人が罹っていたし、アレルギーとは違うもの、という認識を持っていたようにも思う。
 今から思えばアレルギー体質であることを明かしていた幾つもの兆候も、夢にもそうだとは考えていなかったので、結びつけて捉える、ということをする由も無い。

 だから、京都では無論のこと、東京に帰ってからも病院に行くことも無く、これまでと変わらない日常に戻ってしまった。
 発症の原因特定もしなかった。どころか、何か明確な原因がある、とも考えていなかった気がする。
 当然小麦についても変わることなく摂取し続けていた。

 しかし、人間の体というのは不思議なもので、それから半年間、全く症状は現れなかった。
 あるいは、食事後あまり運動に類することをせずに過ごせたからかもしれないし、まだ初期だったので、アレルギーの官能性が低かったからかもしれない。
 大きなストレスに晒される環境では無かったから、という可能性も高い。
 旅行中は先にも書いたように体力的にきついし、興奮し続けているので、プラスの感情とは言え、精神にも(正の)大きなストレスがかかっている。
 それが反応の閾値を大きく下げてしまった、というのは間違いないだろう。

 それを証明するように、翌2002年の5月、ついに再度じんましんが発生する。