特徴が無いのが特徴、とも言える一冊。
あまりコメントすべきこともない。
「うわごと」どうやら死者と対話していたらしい祖母。
急に来たと呟く大叔父とのやり取りに不思議を感じていると、まさにその時刻に大叔父が亡くなっていた、との知らせが。
状況があまりに符合していることから、やはり死後の世界はあるのでは、と考えさせてしまう事例となっている。
「黒いボール」部屋の前に黒いボールが存在していると、間もなくその住人が死亡してしまう。
なかなかに恐ろしい。
これは一体何モノなのだろうか。
「Hヶ峰」この手の、聴けなかった怪談、無論気になって仕方ない。
話の中では、明確な怪異は登場していない。
心霊スポット現地では何事も無く、帰ってきてから家で怖い目に遭う。
しかし、3組いずれも何かを見たりはしておらず、二人は猛烈に怖い気配を感じた、というのみ。
残りのカップルも、突然豹変した彼女が自分の腕に切りつけてしまった、というけれど、これはもう怪異であるかどうかも定かではない。何だか恐いとは言え。
ただ、実はこの先が酷かったのだ、という。
どう酷かったのか。行方が知れなくなってしまった今、知る術は無い。
「良くない音」由来はまるで判らない。
しかし、なかなかに不気味な怪異だ。
さらに言えばかなり恐ろしい存在でもある。取り憑いた相手を死に至らしめてしまうのだから。
語り手を触媒として、活動を繰り返す怪異。
それがいつ自分に向かってこないとも限らない。
隣室の夫人のエピソードは、意図的ながら、残された3人の子が不憫でならない。
噂好き、というだけで、それ程悪い人とも思えないのだけれど。
「首斬りさん」何とも奇妙な話である。
首から上が無い怪異に、首を切り落とされ、入れ替わられてしまう。
ただ、首から上はそのままなので、人格が変わってしまうわけでは無いらしい。
この首無し、一体何者なのだろう。
そんな状態で死ぬ人間など、そういるわけではない筈だ。
複数いる上に、時には首の取り合いまで。どこから湧いてくるのか。
気になるのは、明らかに語り手の精神が不安定と思われること。
その分、この話もどこまで事実なのか、慎重に受け取る必要がありそうだ。
どの話も、何だか敢えて恐さを抑えてしまっているような印象を受ける。
しかも、語られている話の外に重要な部分が置き去りにされてしまっているかのようなところもあって、どうもはぐらかされたような気持ちにさせられる。
残念だ。
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神沼三平太 竹書房 2023年02月27日頃