サントリー美術館/歌枕 あなたの知らない心の風景

2022年6月29日~8月28日 開催

2022.7.19拝観

 この前の展示、「北斎」展で久々に友の会会員限定の内覧会にて訪問したものの、思いの外混んでいた。
 少々時間が早かったこともあり、北斎という人気の展示だったこともあるので、もう一度トライしてみよう、と思い、今回もこの日に拝観。
 今回の展示にはこれ、という目玉もなく地味なものだったせいか、やはりがらがらだった。
 やはり好き放題観られる、というのは有難い。

 「歌枕」というテーマなので、各地から歌枕を題材にしたような絵画や工芸、古筆切などを中心とした展示。
 大半の作品は既に観たことがあるものだった。覚えていないものが大半だったけれど。

 ちょっと近代画のような趣のある、山本探川の「宇津の山図」(静岡県立美術館蔵)などは新鮮。

 一番最後に展示されていた、伊万里の吸坂手と呼ばれる小皿「吸坂焼武蔵野皿」(北村美術館・京都蔵)も面白い。
 瑠璃釉と柿釉を真ん中で掛け分け、それに白い月が描かれているだけのシンプルなデザイン。抽象だと言われても違和感が無い。
 現代でも充分に通用する冴えた意匠だ。
 思わず欲しくなる。
 この文様を武蔵野、と捉えたのは写真家の土門拳だったようで、本当は何を描いたものかは判らないようではあるけれど。

 また、土佐光起はやはりとんでもなく巧いな、と思わせられたり、谷文晁は高価な絵具をふんだんに使っているな、と感心させられたり、と既見作品ながら、改めて感じることもあった。

 嬉しかったのは、狩野養信の初期作という三幅対の作品「天橋立・須磨・明石図」(個人蔵)を拝見出来たこと。
 まだ古典作品の研究も充分ではない頃なのか、全体に仕上げは甘く何だかぼんやりとした印象はある。
 しかし、それまでの形式化様式化してしまった狩野派の作風とは明らかに一線を画す、伸びやかな表現が瑞々しい。
 三枚別々の風景を描きながら、並べると一幅の風景画としても成立してしまう、という仕掛けも斬新。

 今回、個人的な一番の目的は、例によって、未見の重要文化財「寸松庵色紙」(京都国立博物館蔵)。
 バイブル「国宝・重要文化財大全」によると、愛知県の個人所蔵となっているも、いつの間にか京都国立博物館が入手していたらしい。
 しかも、書かれている歌は在原業平の有名な「ちはやふる」。落語でもお馴染みだ。
 判って読んでみてもあまり判別できないところも多いけれど、古筆切の中でも古く貴重なもの。重要文化財に指定されている連れも多い。
 雲母摺の下絵なども含め、やはり優美な佇まいを醸し出している。
 とにかく、もうなかなか新規の重文作品には巡り逢えないので、一点だけとは言え有難い。

 言ってみれば、新規の重文一点、というのは御開帳仏と一緒なのだ。
 限られた日時に合わせ、時にはとんでもないところに存在するお寺や建物を目指して金と時間を掛けて訪れる、というよりもどれだけ楽か。
 まあ、こういうものを効率やコストパフォーマンスで考えるのもどうかしているが。

 実は、館に着いた時点ではエレベーター待ちのお客さんが数人ながら並んでいて、これは今回も失敗したか、と思ったら、展示室に行ったらほとんど人がいなかった。
 館内アナウンスを聞いていると、この日、通常はセミナー的なものを行っている6階のテラスを開放しているらしい。
 一通り観終わった段階で上がってみると、確かに入れるようになっており、外のベランダテラスにも出られるようだ。
 しかも、ミニペットながら、氷水で冷やしたお茶までいただけた。有難い。

 テラスに出ると、この日はぐずついた天気だったのが何とか雨は止んでいて、ちょっと怪しげな雲の具合がかえって味のある風情となっていた。
 ミッドタウンが見下ろせ、安藤忠雄建築である21_21DEZIGN SIGHTを上から覗く、という珍しい体験も出来た。
 隣にえらく高いマンションが建っていることなども、この時まで全く認識していなかった。どうやら三井のパーク・コートらしい。
 時折、飛行機が飛ぶのを見掛けたりもしながら周辺の景色を眺め、テーブルと椅子も幾つかあるので、そこにちょっと座ってお茶を飲んだりした。
 建物の端に沢山の風鈴を下げていて、その音が涼やか、ではありながら、風がかなり強かったので、のどかな感じでは無かった。
 危うく引き千切れるのでは、と心配してしまう程。ちょっと大袈裟だけど。
 後で会報誌を確認したら、内覧会の下にしっかりと載っていた。完全に落としていた。
 時間も丁度到着した16~18時まで。タイミングもばっちりだった。
 開始時間だったからちょっと混み合っていたのだろう。着物姿の女性などもいらしたし。

 これは凄い、というような展示ではなかったけれど、見直しになる作品も含めて、雅なテーマのせいか品格のあるものが多く、とても気持ち良く観ることが出来た。

 三連休だったのでその前の日まで初めての三連勤直後。やはり疲れはいつもよりきつく、迷うところも若干あった。
 しかし、思わぬサービスなどもあり、思い切って大正解、だった。