三菱一号館美術館/イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜

2021年10月15日~2022年1月16日 開催

2021.12.8 拝観

 これまで全く聞いたことのない美術館(博物館)だったし、得に目玉となる作品も無さそう。
 恐らく人気は出るまい、と舐めていたら予想外の混雑。
 会期も後半に入っているとは言え、まだ一か月以上残ってはいる。
 勿論、月に一日だけのマジックアワー(夜間割引)だから、ということはあろう。
 やはり印象派、というのが効いているのか、皆美術館に行きたい、という意欲がぐっと高まっているのか。

 しかも、圧倒的に女性が多かったのも特徴的。
 少しとうのたったお姉さんから中年まで、オフィス勤務らしき女性層がほとんどで、男性は完全に少数派だった。
 印象派だから、というのもあるだろう。
 しかし、それだけではない。
 基本的に三菱一号館美術館の入館料は高い。今回も一般1,900円だ。
 以前から他館よりも結構高く、それでもどうにもなるものでもないので我慢してきた。
 最近では他所も大分高くなっ来てしまい、特にコロナ禍のせいかそれ程目立たないものになりつつはあるけれど、悲しいことに。
 それが、先にも書いたようにこの日は17時以降であれば入館料が1,200円と大分お得になる。
 そういった金額へのセンシティビティが、やはり女性の方がシビアなせいだ、という気がする。

 展示はコローやドービニーに始まりボナールやベルナール、ヴュイヤール辺りまで、ほぼフランス人とフランスで活動していた作家たちに限られている。
 作品はほとんど小品で、かなり小さいものも多い。
 博物館自体が1965年開館とそう古いところではなく、かのロスチャイルドからの寄贈もあったものの、どれもその後の収蔵によるもののようだから、まあ仕方ないところか。

 ただ、小さくとも端正に描かれた作品が多く、個人的には結構好き。
 コローやブーダン、ギヨマン、ヨンキント(特に小さい)など、いずれも素晴らしい。

 また、ゴッホの作品としては珍しく、緑の中に赤いポピーの花が描かれたものがあり、興味深かった。

 ピサロの人物画も、絵のタッチは好きなものではないながら、描かれている女性が何とも素敵なので惹かれてしまった。

 クールベのかなり小型の静物画。
 森と草原のような風景をバックにアップでリンゴとにんにく?らしきものが描かれている。
 そのサイズ感、背景と全景とのミスマッチから、何だかシュールの絵を見ているようで何とも収まりの付かない奇妙な気持ちにさせられた。

 この展覧会で一番驚いたのは、レッサー・ユリィという画家の存在だ。

 ドイツ(現ポーランド)生まれということだ。
 聞いた覚えもないと思ったら、やはりこれまで一度も作品を観たこともなかった。

 自分だけの発見かと思っていたら、この作家のことを調べようとネットで検索してみると、他にも驚きを持って評価している人が何人も発見できた。
 この展覧会が始まって直ぐから瞬く間に人気となり、グッズが売り切れてしまったり混雑を避けるため展示位置の変更を行ったりもしていたようだ。
 何だかちょっと残念な気がするけれど、自分の目もそう間違ってはいない、ということを確認できた、とも言えるのでそれで良しとしよう。
 何より、こうしてまた新しい逸材に出会えたのは有難く嬉しいことだ。

 4点展示されていたユリィの作品は、いずれもシャープな印象。
  細かく精緻に描く、というスタイルではないのだけれど、水(雨の路面含む)に映る反射などは実に効果的。
 図録では残念ながら全くその良さが見えなくなってしまっているけれど。
 すっと描きながら見事に的確な描写で、省略の具合がまた素晴らしい。
 19世紀末頃から活動していたとはとても思えない。現代作家の作品、といわれてもおかしいとは思わないだろう。
 軽く時代を超えてしまっているようなところがあり、これは同時代の人たちにはちょっと理解できなかったのではなかろうか。

 展示点数は少なく、国内所蔵のモネ「睡蓮」3点で一部屋、三菱一号館美術館所蔵のルドン「」で一部屋、とかなり贅沢な展示スタイルで間を持たせた感じ。
 混んでいたにも関わらず、一時間もあれば観直し含めて観終えてしまった。

 この「睡蓮」はいずれもイスラエル博物館のものと同様に縦長の作品。そういうタイプの記憶はおよそ無かったのだけれど、この3作品いずれも既に観たことがある作品だった。
 似たような構図なのにかなり印象の違う作品で、その対比はなかなか面白い。
 ちょっとリアルな印象のDIC川村記念美術館作品に穏やかで繊細な印象の東京富士美術館所蔵品、そして燃え上がるような朱(オレンジ)の輝きが力強い和泉市久保惣記念美術館の一品。何だかやたら長い名前の美術館ばっかりだな。

 どかんと来るような衝撃があったり見応え充分で圧倒されたり、というような展示ではなく、ユダヤの地だということで期待したレベルからすると、少々物足りなかった、という感は否めない。
 でも、好きな作家の未見の秀逸な一枚を鑑賞出来たり、新しい作家との出会いがあったり、と混雑を気にしなければ気持ちの良い一時を過ごせた、と考えれば、これもまた良い時間であった。