さたなきあ/其レハ事故物件ニ非ズ

 最早レジェンドとも言える著者の2年ぶり(発売は1年2か月程)の新著。
 元々いつも凄い、というものでは無いのだけれど、そこはかとない(強烈な、というのとも違う)個性が何とも言えない味わいを引き出してくれる。

 ただ、それにしても今回はどうにも怪異そのものが弱い。やはりこんな御時世、取材が捗捗しくなかったのだろうか。
 印象に残る話もごく限られたものに留まってしまった。

 「黒電話」何とも奇妙な怪談である。怪異そのものはそれ程強烈ではない。
 しかし、確かにこの話の体験者のように、かえってぎりぎりなレベルなだけに余計気になりそうだし、連日となると精神にきても何ら不思議ではない。
 ところが、その怪異の元となる人間は別に非業の死を遂げた、というわけでもなさそうだ。単にそこを追い出されただけの話でしかない。しかも、その部屋自体は取り壊されてもう存在すらしていない、という。
 一体どういう現象なのか、理解に苦しむ。強いて解釈するなら、追い出された恨みで呪いをかけた、もしくは直後に死を選んでしまって祟るようになった、ということも可能性としてはある。そうとでも考えないと納得も出来ないだろう。
 一つ気になるのは、大家たるものが、その店子に対してここまでぶっちゃけて全てあからさまに喋ってしまうか、というところ。
 まあ、もう何だかかなり心が荒んでしまっているようだから、誰かに吐露するつもりでぶちまけてしまったのかもしれないけれど。

 「問題物件 ②店舗不在」最初からオチが読めるような話ではあるものの、やはり蠢くモノたちの詰まったたこ焼き(の器)というのはかなり強烈におぞましい。
 しかももしかするとそれは以前おばちゃんが本当に行っていたことかもしれない、という。「心霊現象とは場の記憶が再現されるもの」という説もあるけれど、これなどまさにそれを支持するような事例と言えるかもしれない。
 払ったお金が返ってきたのはラッキー、なのか。

 「あとがき」ここで紹介されている怪談の梗概が実は一番興味深かった。出来ればしっかりと全編を読んでみたい。
 しかし、相当にぼかされた形で紹介されているため、キーワードを探って検索してみてもまるで判らない。残念だ。
 江戸時代の怪談にはこのように怪異が次々と趣向を変えてくる、というのが結構あるようだ。「稲生物怪録」などもこの類では。ただ、あちらは最終的に怪異の方が根負けしたような格好だった筈なので、これとは違う話だろう。
 窓から覗き込んでいながら「お前の家になど興味はない」と宣う逆ギレ、否むしろツンデレと言ってもよい状況に萌える。

 題名にもあるように、不動産・物件絡みの怪談が沢山集められている。
 ただ、全体にどうも既視感のあるネタが多く、本来一番好きなジャンルの一つなのに満足しきれなかった。
 前書きで著者自身語っているように、今回はまさに「不発弾」。

純粋怪談  其レハ事故物件ニ非ズposted with ヨメレバさたなきあ 竹書房 2021年01月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る