牛抱せん夏/呪女怪談

 残念ながら感性が全く合わなかった。

 まず怖いと思えるものがほとんど無かったし、どこかで聞いたような定番ネタと思ってしまうような内容のものが多かった。
 しかも、追加取材や話の深奥を探って突っ込んでいく、というようなことを一切しないタイプらしく、さあこれから、というところで終わってしまったり、何だか良く判らないままぷつりと途切れてしまったり、語り手の言動にも脈絡が無かったり。

 印象に残る話もわずかしか無い。

 「タクシー」話としては王道中の王道、著者自ら書いている通り、べたなネタである。
 しかも途中運転手が幽霊を意識して右往左往する割に結局意外な展開も無く見事に消えてしまう、と意外な展開にならないというある種予想外の筋。
 最後に男性が何故躊躇無く金を払ったのか判らない、と締めているけれど、その霊がその家の人間である、というこれまた鉄板のネタが容易に想像できるどころかそれしか思いつかず、わざわざそんな文章を付け足した理由の方が判らない。
 この話の興味深いところはただ一点、ドライブレコーダーをチェックしたら、途中で消えた、というのでは無く最初から何も映っていなかった、というところ。
 やはりこうしたケースでは途中で消える、というよりは端から見えているけれど存在しないもなのだ、と考えられる。

 「クラクション」読んだ時点では、震災の哀しさを伝える佳作と感じた。
 しかし、その後調べてみると不審な点の多い話であることが判った。
 一応仮名にはなっているけれど、この話の条件に合うのは大熊町しか無い。
 まずこの時点で自宅に泊まることは禁止されている。
 まあ、それは規則を無視しての行為だとすればあり得なくは無い。
 しかし、この町では震災による被害者は12名だそうだ。その全員が車で被害に遭っていたとしても、爆音で辺りが包まれる、という状況には程遠い。隣町まで拡げてみても大きくは変わらない。相当遠くから出張してきている、ということでも無ければあり得ないことになる。
 これが岩手県の話だ、ということなら素直に信じられるところだけれど、福島で無ければ成り立たない内容でもあり、怪異としては納得のいかないものであると考えざるを得ない。語り手が夢を見た、ということなら納得はいくけれど。まあ。だとすると怪談では無いが。

 書き方にも独特の癖があり、ちょっと入り込み辛い。
 また、金縛りの解釈であったり(夢の中であっても、本人は目が覚めたつもりであるのが普通)、大家が店子に霊現象をべらべら話してしまう、などの根本的な疑念を抱かせるようなケースも時折あり、それも愉しみ切れない要因となっていた。

呪女怪談posted with ヨメレバ牛抱せん夏 竹書房 2020年05月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る