牛抱せん夏/実話怪談 幽廓

 女流怪談師、というなかなか珍しい立場の著者。女性怪談作家も増えつつはあるけれど、小説家を中心に他の職業との兼業の方ばかりなので。
 かなり秀逸、と思える作品が二つも入っていた一方でもう一つと思えるものも結構あって、落差が激しい。

 「インターフォン」力のある人は、遠方にいる別の人間の体を借りて魔を払う、ことなど出来るのだろうか。およそ聞いたことは無い稀少な事例だ。
 これができるならいわゆる霊能者ももっと楽になるのでは。興味深いけれど、俄には信じ難い話でもある。
 またこの話、声優の浅沼晋太郎氏から聞いた、と実名で挙げられているけれど、内容には全く関係が無くわざわざ記す必要があるのだろうか。

 「鬼ごっこ」兄と遊んでいるかと思っていたら、違う存在だったようだ。ただ、一緒にいるところからそのまま遊びに入っているようだし、母親もそれを見送っている節もある(声だけかもしれないけれど)。一体どうやってすり替わってしまったのだろうか。
 意外に気味の悪い話ではある。

 「そば屋」霊なのにあるいは霊だから、だろうか、そばが残っているのを見透かされてしまう、というのはぎくり、とさせられることではある。しかもそのそばが無くなってしまう、という物理的証拠まで。出来ればちゃんとお代を払っていって欲しかったところだ。

 「鉄オタ」思いがけず遭遇してしまった土左衛門(見てはいないようだ)、無遠慮に撮影してくる男、近付くと突然の消失、残されたカメラと三脚(しかもびしょ濡れ)、何故か自分のカメラに残るそのカメラで撮ったと覚しき自分の写真、そしてそのままの失踪、とそれぞれの因果関係はあるような無いようなという微妙な空隙は残しながらも、とにかく畳み掛けてくる出来事に惹き込まれてしまう。最後も時折ある展開とは言え謎が残る。
 ちょっと稲川怪談にテイストが似ている。
 なかなかの逸品だ。

 「川遊び」これも何とも奇妙な話。
 本来なら死んでしまっている人間と共に行動していた、というだけでもとんでもない。
 ところが、そこからどうにも矛盾した展開を迎えていく。
 皆が亡くなった彼を家まで送っていくのだけれど、実は乗っていた筈の車は死亡現場近くで見つかっている。母親も確認しているので、このメンバーだけの妄想でも無い。
 布団に寝かせたつもりが布団は平らなままで、それでいながらびっしょり濡れていたという。
 更に不思議なのは、遺体の服装は、語り手たちが着替えさせた「後の」姿で見つかっていること。
 当人はどうやら死んでいることに気づいているようなのに、ほんのり匂わすだけではっきりしたことを言わなかったのは何故なのだろう。
 どう考えても一貫した合理的な説明を行うことが出来ない。その不条理さが堪らない。

 上記二作品を読めただけでも幸せ、と言えば言えるのだけれど、何故か充実感は稀薄で評価の難しい本ではある。 

元投稿:2019年12月頃

実話怪談 幽廓posted with ヨメレバ牛抱 せん夏 竹書房 2019年10月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る