2023年3月25日~6月11日開催
2023.4.18拝観
今回は、夕方のラッシュ前に帰宅してしまおう、と思い、珍しく午後にお出かけ。
新宿駅で降りて、まずは新宿中央公園に向かい、旧淀橋浄水場関連遺構として唯一残っているという、六角堂を観る。
残土を埋め立てたという富士見台と名付けられた小丘の上に建つ東屋だ。
コンクリート造りとは思うけれど、ローマ建築を模した石柱風の柱はなかなか優美なもの。
建築年代が1906~1927(明治39~昭和2年)頃、とアバウトなのも面白い。
その後、浮世絵でも有名ながらこちらもこれまでお参りしたことが無かった、十二社熊野神社に参拝。
本殿や神楽殿も新しそうだけれどなかなか本格的な造りだし、江戸時代の石碑や水盤、狛犬などもあって立派なものだ。
昔は、中央公園の一部も境内だったのだろうか。
そこから、今は西新宿五丁目駅近くにある「団子のやよい」を目指すも、14:30過ぎで既に売り切れ、だった。
これで今年二回目の空振り。
何とも残念だ。
注文してから焼いてくれるし、甘くないきりっとした醤油だれでいくらでも食べられてしまう団子が、何と一本110円位。
ここに寄りたかったこともあり少々早目のスタートにしたものの、もっと早めに来なければいけないようだ。
いつもとは大分違う時間帯なので比較は難しいけれど、長い会期のまだ前半、地味なテーマの展示、にも関わらず、思っていたよりは人が来ている印象。
とは言え、フロアにぽつぽつといる程度で、ほぼ好きなタイミングで作品を観られる状態だったので何も問題なし。
最初の階(5階)は、ブルターニュの作家たちのようで、知っている名前が一つもなかった。
しかし、これがなかなかに素晴らしい。
最初、いきなり目にどんと飛び込んでくる、ギュダンという作家の「ベル=イル海岸の暴風雨」。
この大作からして見事だ。
物凄く緻密に描き込んでいる、というのではないのだけれど、ごつごつとした岩の量感、そして何と言っても荒れ狂う波のエネルギー、風に舞う波頭の飛沫がしっかりと表現されている。
しかも、面白いのは空が真っ暗では無く、雲間から日が差し込んでいて、お天気雨のようになっていること。
それによって、海面が日を受けてオレンジに輝き、色味が一層複雑な表情を見せている。
その左方に展示されているアルフレッド・ギユの「さらば!」も目を惹く。
先の作品よりも一回り大きく、海で難破している親子をアップで描写しており、緊張感に満ちた迫力が凄い。
絶命してしまっている息子の背中が、まるでそこに実在しているかのような質感をもって描かれている。
荒れ放題の波が渦巻き風に千切れ飛ぶ様子が、全面に描き出されている。
驚くべき躍動感だ。
これら以外にも、全体にかなり大型の作品がずらりと並べられており、それだけでも見応えは充分。
フロア最後の方に展示されていた、レヴィ=デュルメールの「パンマールの聖母」も実にユニーク。
構図としてはイコンそのままの正面向き聖母子。
なのに、二人の顔や衣服などは超絶なまでの写実、背景には何故かブルターニュの海岸風景が描かれる。しかも、そちらはいかにも近代風で、あまり奥行き感が無く平面性が強い。
装飾的な額も含め、まるで調和しているとは言えないものの、不思議な存在感がこちらに迫ってくる。
小さい作品ながら、何とも印象が強い。
次のフロア(4階)は、最初からブーダンやモネの作品など、知っている作家が登場してくる。
但し、モネの2作品はいずれも国内美術館の所蔵品。ブーダン作品と同じ風景を描いているらしい、とのことでのゲスト参加のようだ。
共に彼にしてはかなり精緻に描かれたものであるのが面白い。
個人的にはこの方が好み。
ここでは、ゴーギャンやベルナールといった「ポン=タヴァン派」、ドニやセリュジェなどの「ナビ派」が中心。
ブルターニュ出身、という作家はあまりいないようだ。
しかも、デッサンや版画も多く、やや地味な印象。
美術館の所蔵品で特にこれは、と思うような作品も無かった。
面白いのは最初の階だけだったか、とちょっと残念に思いつつ、3階へ降りる。
一転、また結構惹かれる作品に出遭う。
何のことはない、印象は~ナビ派を元々あまり好きでは無い、というだけのことだったようだ。
ピュイゴドーという、これまた全く知らなかった作家の「藁ぶき屋根の家のある風景」。
柳々居辰斎作品のように、海岸の風景ながら、そのほとんどを空が占めている。
その空は、まるで月かのような淡い光を放つ太陽を中心に、思わず見惚れてしまう繊細なグラデーションに包まれている。
空の色だけから見ると、まるで日没直後のようだ。
微かな霞か雲の仕業なのだろうか。
狭いながらも、海には3隻の帆船、その帆も真っ赤に染まり輝いている。
陸には、石造りらしき小さな家。
ちょっと童話か絵本にでも出てきそうな可愛らしいもので、あまりにメルヘンチックなのがちょっとだけ残念。
反対に、シャルル・コッテの、暗いながらも空間の拡がりと粛然とした空虚感にも惹かれる。
粗密の激しい雲の表現は、イタリア・バロックのグエルチーノを思い出させる。
アンドレ・ドーシェによる、いかにも浮世絵的な樹木の描写も、この時代のフランス作家には結構見られるものではあるけれど、やはり興味深い。
そしてラスト近くを飾る、モーリス・レオナール。
没年は1971年、ともうすっかり現代の人らしい(この人も初めて)。
結構大胆に省略され、抽象的な立体に近い造形の中、窓など最低限の要素を描き込まれた建物が、その品の良い色遣いと相俟って、何とも洒落ている。
全体にアールデコの匂いがする。
また、人物が皆真っ黒で細部も描かれず、ずらりと列を成しているので、もう蟻にしか見えない。
これもまた個性的。
テーマがテーマなので、好きな風景画が当然のように多くなり、それだけでも楽しめる要素が一段と強いものとなっていた。
また、展示作家は大半が全く接したことも無い方々ながら、惹かれる作品が沢山あった。
これは以前Bunkamuraザ・ミュージアムで観た「ロマンティック・ロシア」でもそうだった。
やはり、作家の名前などに惑わされてはいけない、ということだ。
これは、ブルターニュ、という土地の風土・風景が自分と相性が良く、魅力的に見えてくるということもあるのかもしれない。
それを感じさせてくれた。
これは観られて本当に良かった展覧会の一つ、となってくれた。