• 郷内心瞳/拝み屋郷内 花嫁の家

     元々は著者の第二作品集として出版されたもの。

     発売当初から凄い、と評判になっていたようだけれど、最初の作品集とこの本を出版していたメディア・ファクトリーのMF文庫はそれ自体無くなってしまっているようだ(MF文庫Jなどのサブブランドを除き)。
     そして、第1作の「拝み屋郷内 怪談始末」の方は現在角川ホラー文庫から再販売されている(昨年末にレビュー済み)。
     しかし、あまりにやばすぎたのか、この本は未だ出てきてはいない。

     そのため、中古価格も高騰し、数千円しているものも。

     流石にそこまでして欲しくは無いな、と思っていたら、何と、電子書籍ではしれっと既に再販されていた。
     迷いはしたものの、やはり読んでみたい、という欲求には勝てず、楽天KOBOにて購入。

     冒頭に大分昔のお話が語られた後、拝み屋としての依頼案件が次々と続いていく。
     最初の一編以外は特に関連性があるようにも見えず、やはり一つの物語で全てを語るのは難しいので、途中別のいろいろな怪談を挟んでいく、というものかと思っていた。
     以前読んだ「拝み屋備忘録 ゆきこの化け物」などがそういうスタイルだったので。

     ところが、実はどれも関係ない、どころではなかった。
     それぞれの話の依頼者であったり登場人物であったり、というのが全て本編である「椚木家」に繋がっていたのだ。

     最初は全く別の話と思っていた後半の「花嫁の家」すら関連していた。
     ただし、こちらの怪異の核自体は、直接「椚木家」とは係わってはいない。
     主人公と言える女性が椚木家の人間であったこと、この家が元々存在していた島が重要な舞台となっていること、などが重なっているところだ。
     そして、この島での出来事、前半の物語で主人公となる千草と後半の霞とが二人で体験している。
     それをそれぞれ描写しているので、最初は電子書籍、ということもあり、ページがいつの間にか動いてしまったのか、と思ったりもした。
     同じ事件を違う立場から表現している、というのはなかなかに興味深い。

     そんなこともあり、それぞれのエピソードを独立して語ることは出来ないし、意味はないと思う。

     全体を通して読み応えは抜群で、これ程凄い怪談物語は読んだことがない。
     先に書いたようにそれぞれのエピソードが繋がり出す辺りからは、途中で読むのを止めるのが難しい位。
     ただ、あまりに出来過ぎなので、本当に実話なのかちょっと怪しまずにはいられない気もする。勿論、脚色がある程度入っていることは当然としても。
     一方で、終わり方がすっきりしていないところは、実話らしい自然さも感じるけれど、何とも言えない。

     とにかく、一連の事件の中で何人もの人が亡くなっており、一族の人間模様はもう横溝張りに凄まじい。
     スケールの壮大さは、怪談としては空前絶後、どころかこれまで読んできた小説の中でも相当に見事なもの。

     ろくでなしである真也が、破滅するどころかどうやら成功を収めてしまっているらしいのは、何とも悔しい。天罰などが当たらないものなのか。
     反対に千草は思いも半ばに命を奪われてしまい、あまりに不憫だ。こちらはどうにも報われ無さ過ぎる。

     全ての元凶である「母様」とは一体何者なんだろうか。
     不思議な獣、ではあるようなのだけれど、ここで描かれている姿は、あくまでも百合子にそう見えた、というもの。
     人によって全く違う存在に見えるらしいから、これが真の形態、という訳でも無いのだろう。
     適度に祟ったり人を魅了したり首だけの存在になっても生き続けていたり、と神に類すると考えても納得はいく。
     ただ、あまり質の宜しく無い代物であることも確か。
     また、骨はあったようなので、それなりに実体化もしているようだ。

     こいつと椚木家の面々は、偶々ここで遭遇してしまったのか。
     それとも何らかの意思を持って意図的にここに姿を現したのか。
     どこにも何ら手掛かりは無く、推測することもままならない。
     そして、骨の破壊、という行為によってこの呪縛は完全に解けた、と言えるのだろうか。

     後半の「花嫁の家」も、祟りの成就か偶然か、主人公とも言える霞さんは亡くなってしまう。
     何とも哀しい。

     どちらの話でも、途中、拝み屋である著者があえて合理的な解釈をしようとし、結局予想外の事態に裏切られる、というのを繰り返しており、何だかちょっと鬱陶しい。
     怪談本なので、そんな話になるわけが無いのだから。

     ともあれ、この本はこれまで読んだ怪談本の中でも第一級に面白かった。
     やはりあえて電子書籍にチャレンジしてでも読んだ甲斐は十二分にあったと言える。

     問題なのは、その電子書籍、という奴。

     文字の大きさを適宜変えられるので読み易く出来たり、バックライトがあるので環境に左右されず読めたり、というメリットはある。

     しかし、今読んでいるところとは別のページを読むのが実に難しい。

     先に書いた島の事件の話にしても、前に読んだのはどんなだったか参照しようとしても、一々戻っていくのはあまりに果てしないし、目次から捜そうにも、そこで判るのはやけにこざっぱりした章の名前だけなので、どれが該当するのか、直ぐには判別できない。
     栞を設定することは出来るとは言え、最初に読んでいる段階では、そこが重要になるなどとは全く思ってはいないのでそれも無理な話。

     こうして感想を書こうとした際には、何か引っ掛かるようなエピソードや内容は無かったかぱらぱらと全体を流し読みしてみる、ということもとても出来ない。

     実は、こうした読書を行うには、まるで不向きな媒体であることが判明してしまった。
     家にある本もとっくにキャパオーバーを迎えており、今後は電子化もありか、などと思っていたけれど、やはりそれはあり得ない。

     本の持つ魅力、愛翫の仕方、というのが、多分に失われてしまうことが判った。
     それに、購入したサービスがいつかは提供を止めてしまう、という事態も有り得る。
     ダウンロードできたとしても、そのデータが消えてしまう、というトラブルもある。
     現に、写真データやスキャンしたはずのアナログレコードのデータなどが消えてしまう、という目には遭ってしまった。

     これからも可能な限り物理的な本を買うことにしよう。

    花嫁の家posted with ヨメレバ郷内心瞳 KADOKAWA 2014年09月 楽天koboで見る