これは新作百編で構成された百物語。
著者は既に何回か読ませていただいている方々である。
どうも最近ショートショートも壺に入ってしまったらしく、結構楽しめた。
冒頭の「さようなら」からもう厭な話だ。
水死体を発見、回収しようとしただけなのに、結局命を落とす羽目になるとは。相も変わらず霊とは理不尽なものだ。
被害者とも言える語り手の話だけなら珍しくは無いものの、短い話なのにそこから三段オチをかましてくれる、という力業が面白かった。
「硫黄島」やはりこの島はとんでもないところなのだろうなあ。
役人までもが全く冷静に対処していることがむしろ怖い。
この島へ行けた人間、というのはそう多くは無い筈なのに、結構話は漏れ伝わってくる。
ここに行って何事も無い、ということなど無いのではないか、そんな憶測すらしてしまいそうだ。
「モールス」単純な話ながら、行方不明事件へと繋がる恐ろしい結末。
行方不明になる前兆としてこんなこともあるのでは、という想像が膨らむ。
「二年」こういう何とも理解し難い不条理な話は好きだ。
しかも、結構強烈。
本当に怪談なのか、という疑念は0では無いものの、巷でハードルが高いと言われる「コックリさん」ものとしても新鮮であるし、通常この状況で精神が崩壊したり異常を来したりする場面では無いように思う。
ともあれ、無事に「帰還」出来て良かった。それでこうして話も聞けたし。
「窓」のカーテンは開けられるのに部屋には入れない男。
一体何が作用しているのだろう。
結界ということなら手すら出せないと思うし。
「おっぱい」のような怪異なら、経験してみたいかも。
ただ、野郎の声で怒られるのは厭だなあ。ニューハーフの霊だったのだろうか。
「十二単」の霊が起こす訳の判らない行動は新しい。
十二単という相当昔の衣装も珍しいけれど、霊にくすぐられ続けた、という人はそういないのではないか。
「平気で‥‥」の霊たちは、まるで死んでいることには気付いていない様子。
それを多数の人に目撃されているというのが貴重だ。
どうやら常連さんのようでもある。
「前の女」は霊などではなく、異次元もしくは別の世界と何らかの原因により重なってしまった空間の話なのではないだろうか。
前に挙げた話同様、死後も気付かず生活を続けている、という可能性もあり得るけれど、それにしては生活感があり過ぎるし、霊に怒られる、というのも妙な話ではあり、相手の意思や行動が生きている力強さを感じる。
是非もっともっとこの件は詳しく研究してみて欲しいところ。
「父」厭な気配を感じても、彼自身そこでは何も経験していない。
しかし、それを何故父が知っていたのか。そしてそこには何があった(いた)のか。
そこは出来れば確認して欲しかった。
「始末書」この場所のように怪異が起きることが決まっているところ。一度経験してみたい。
何しろ規則で決められている、という話だから相当に凄い。
しかし、何故怪談をする時のみ怪異が起こるのか、謎は残る。
「焼きそば」良い話だ。東東京に住んでいると祭りも街の風景として当たり前の馴染みになってくる。それだけに何だか身に沁みる。
怪異としては目新しくもないけれど、そんなことはどうでも良い。
「祖母」で現われるものの表情が怖い。
そして、この後皆の記憶から祖母の顔だけが失われてしまう、というのは何とも不思議で新鮮。
「変わり身」のように霊は自分から積極的には動けない、という説もあり、一方でとんでもなく自由に動き回る奴もいる。どちらが正しいのか、どちらも正しいのか。
良くは判らない。
ただ、店の営業に関わるような大事であれば、もっとしっかりと禁止してきそうなもの。
何だかいい加減な気がする。
「映画館」霊にマークされた途端、行方不明になってしまう。何とも厭な事例だ。
こんな目にだけは遭いたくない。
「禿坊主」何だか不思議な話だ。
切った髪がすぐ伸びる、というのは確かに尋常ではない。
でも、こんな風に髪を失う人もいるのだと驚いた。
「女たち」の合わせ鏡のような情景は、想像すると相当に怖い。
ただ、流石にずらりと続いていた、というわけではないのだろうな。
「ひょっとこ」こちらは逆に思い浮かべるだけで吹き出してしまう。
このエロ魂は、何だか見習いたい気すらしてくる。
水を噴き上げる霊、というのは意外とあまり聞かない事例だとも思う。
「常駐型」この運転手はそういったところでも嫌がらずに行くのだろうか。
先の「始末書」同様、こうした出現が確実な場所については思い切って公開してもらいたいものだ。
そうすれば論争にも終止符が打てるだろう。
「ミキサー車」に現われる人影の行動の意味、そしてその場所に何があったのか、気になることは多々あれど、明かされることはない。残念だ。
「穴」海外でその土地固有の妖怪のようなものに遭遇する。とても貴重な話。
言葉の問題など、偶然では片付け難い。
「トーマス」は最後のくだりを読むと、狸か狐に化かされたのでは、という印象もある。
何だか怖い感じもしないし。
「風」は映像的な一編。
でも不思議ではある。
ちょっと「(未来世紀)ブラジル」後半のデ・ニーロ消失のシーンを思い出してしまった。
「刃研ぎ」の凄惨な結末には息を呑む。
やはり警告を受けた場合、特にプロの意見には従うべきなのだろう。
研ぎ師さんに何事も無くて良かった。
流石に大作はほとんどない代わり、比較的新鮮な事例が多く、結末は意外に軽くない(行方不明になったり殺されたり)ものも結構あって充実していた。
今回は三人の著者の誰が、ということはなくまんべんなく楽しめた。
元投稿:2015年9~10月頃?
恐怖箱切裂百物語posted with ヨメレバ加藤一(怪談作家)/高田公太 竹書房 2015年08月 楽天ブックスで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る