• 福澤徹三・糸柳寿昭/忌み地 怪談社奇聞録

     先日「」を先に購入してしまったこのシリーズ第一巻。
     中古だったので、これ(惨)しか無かったのだ。

     何故このコンビを組むことになったのかについては、福澤氏が怪談社メンバーの取材の様子を書きたかったから、としか説明されていない。
     まあ、それ以上の理由は本当に何も無いのかもしれないけれど。

     内容については、惨に書いたことと基本は一緒。
     とにかくえらく淡々とした調子で、怪談なのに、醒めてしまっている、という印象が強い。

     「猫が鳴く道」いくつかの怪談が、思わぬ形で繋がり、一つの真実を暴き出す。
     これもそれに類するものではあるのだけれど、繋がるには繋がっても、どうもちぐはぐでむしろ不可解さは強まるばかり。
     猫の鳴き声かと思っていたら胎児の声だったらしい、という話はまあよくある。
     ただ、それがベランダからの転落を招いてしまった、というのが怖い、けれど妙。
     何がどうしてそうさせたのか、というのが判らない。ただの偶然、という可能性も考えられる。
     電話ボックスの女の話も、果たして怪談なのか実話なのか、情報が交錯してしまいはっきりしない。
     しかも、実話だと仮定し女性がおかしくなってしまったからといって、何故ずっと産婦人科に電話し続けなければならないのだろうか。
     また、これは怪談というより不気味な話として挙げられている牛蛙の話。
     昔とは言え、昭和も40年代になって、都市部のどぶ川に胎児を大量にそのまま捨てるような豪気な医者がいるだろうか。完全な違法行為でもあるし、普通はもっと隠そうとして手を考えそうなものでは。
     偶然取材しているうちに、埋め立てられたどぶ川、というところで話が収束していく、というのは興味深いのだけれど、かようにどうもバラバラで信憑性に疑問がつく内容も多く、残念。
     郷内怪談辺りであれば、ここから凄い展開が期待出来るだろうに。

     「三人連れの真相」現実が怪談を超える、という時折言われているようなことを、地でいったような話。
     途中語られる怪談はごくありきたりのもので、しかも尻切れ蜻蛉に終わってしまう。
     だが、その後ろのベンチに座っていたのは、自殺した男と、それを挟んで座る若いカップルだった。
     なぜそんなシチュエーションになってしまったのだろうか。

     「素人呪術」実際のところ、怪異と呼べるものは起きておらず、何とも言えないところながら、不気味な話ではある。
     ばらばら死体の件も符合が過ぎる。
     ましてや、呪った相手も、掛けた当人も行方知れずになってしまう、というのは、呪術の決着として当然の流れ、なのかもしれないけれど、やはり怖ろしい。

     「不思議な迷子」前半のエピソードは、単純にいつも同じような行動をすることに子どもが気付いているだけ、という可能性も充分にある。左程不思議な事とも思えない。
     むしろ、不思議なのは後半。
     何故子どもが気付き、妙な行動をとるのか。
     何か微かな臭い、フェロモン、足音などが原因と思えなくも無いけれど、事務室の中と外と、ではそれもどの程度有り得るのか。
     それと、以前誰かの本で読んだ、特に何かあったわけでも無いのに突然子供たちが揃って一斉に遊びを止め、一点を指差していた、という話を思い出した。記憶違いの要素もあるかもしれないけれど。
     何か通ずるところがあるようにも思われ、子どもの不思議な感覚・行動、というものに興味が湧く。

     「古井戸があった家」井戸を粗末に扱うと大変なことになる、そういう話は多々あるけれど、その中でもこれはなかなか強烈な報い。
     しかも、それを祓おうとしていた拝み屋さんまで不幸に。
     飛んだとばっちりだ。しかも、祓う前に事故は起きてしまっていたのに。
     井戸は大事にせんといかん。
     否、それよりも出来るだけ関わらないこと、か。

     「奥歯」奥歯と怪異(と言っても肩の重さ程度だけれど)とに関連があるのかは不明だ。
     しかし、バーの床に奥歯がいきなり落ちている、ということ自体あまり尋常なことではない。
     そっちの方がむしろ怖い位だ。
     ただ、バーテンダーが言うように、靴の底に挟まって、というのはちょっと考え辛い。
     奥歯と言えばそれなりの大きさはあるだろうし、そんなものが挟まって何も気にならず歩き続ける、など有り得るだろうか。

     「撮影禁止」殴られてもそれから土産を買いに行ってまで取材を続ける。
     その粘りは何故なのだろうか。
     その凄さに、怪異が霞みそうになる。
     ただ、この家を巡るエピソードも、何とも奇妙なもの。
     小火で貸借人一家が全員死亡してしまって以来寂れている。
     しかし、それに先立ち、早世した妻が死に際、「息が詰まって死ぬから」家と土地を売り払って欲しい、と願ったという。
     誰が、そして何故、という辺りがまるで不明なままで、そんなことを臨終間際の病床で突然語るのも何とも不思議。
     永遠に解けることの無いこの謎が気になって仕方ない。

     ここで書かれているような取材スタイルが本当だとすると、彼らのメンタルは実に強靱なものだと思う。
     しかもそれで酷い目に遭ったりしながらも全くへこたれること無く突っ込んでいく。
     どこか頭のネジが緩んでしまっているのでは、と思わなくもない。

     途中、それぞれ独立したネタのように思えていた話が思わず繋がっていく、というのは興味深い。
     しかし、ここでも著者の性格が見事に表れてしまっていて、全てを結びつけて考えてしまうのは早計、として、ぼんやりとしたまま終わってしまう。
     盛り上がらないことこの上ない。
     郷内怪談なら、ここからが見せ場、というところなのに。
     一方、いくつかの怪異で登場する「黒い人」というのを炭坑の犠牲者、と決めつけてしまうのは、確かに問題がある、かもしれない。
     「煤」というエピソードで語れたのはあくまでも煤で汚れた男。
     それ以外の話では、影のような真っ黒な人、であって、明らかに様子が異なる。
     炭坑で如何に汚れようと、全身が全く判らなくなる程にはならないだろう。
     関係があるかないかは不明ながら、別の存在・あり方であると思った方が自然では。

    忌み地 怪談社奇聞録

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    福澤 徹三/糸柳 寿昭 講談社 2019年07月12日頃

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