• 戸神重明/群馬百物語 怪談かるた

     今回は新作。

     以前在籍していた会社に群馬県出身の営業がいた。
     彼から「上毛カルタ」というものがあることをについて初めて聞き、またそれが群馬県人なら誰でも知っていて大事な存在である、と知って驚いた記憶がある。
     彼らの思いとは逆に県外では全く知られていないことだからだ。そのギャップが何だか面白い、ともその時は思った。

     この本にしてもその匂いは感じられる。
     おそらくはほとんどの人にとって、何故このようにかるたが持ち出されてこなければならなかったのか、理解できないのではないだろうか。自分にとっても、あのエピソードがなければ狐につままれたような面持ちだったろう。
     上毛カルタの話題に触れたのは人生の中でまさにあれ以来の気がするので。

     五十音に合わせて50話になるのかと思ったらそういうわけではなく、実際には百物語になっている。確かに題名をちゃんと見たら「群馬百物語」と謳っていたものの、題名など読む段階では気にしていない(結構目にしてもいない)ので全く気付いていなかった。
     なので一話はかなり短く、あっさりしている。中には新耳袋のように続き物になっているものもあるけれど。

     人類初、という触れ込みでの「群馬県限定」怪談。その分、どうしてもネタに限界が出てしまったのか、怪異のレベルがどうにも弱い。

     全く怖くない。

     印象に残ったものも、怖かった、というより何かしらの引っかかりで気になった、というものがほとんど。

     「伊香保にあった ガラスの廃墟」何もない空間から大きなガラスを出現させ降らせてくる、というなかなかに強烈な怪異だ。何故後輩を誘導してまでここに呼び寄せ、そんな面倒なことをしなければならなかったのかは判らない。しかも結局未遂に終わってしまっているし。

     「カメラに映る 高崎郊外の G老人」亡くなった筈の人が死後も‥‥、という話自体は珍しくも無い。ただ、ここで現れる老人は金色に輝いていて、しかもだんだん光が強くなっている、という。まるで聖人だ。
     二行に纏められてしまっているのが残念な位娘婿の最期は悲惨。
     この後も、そして今でも老人は現れているのだろうか。そして輝きは強くなりつづけているのか。

     「北軽井沢にいた 巨獣」瑞獣を見た(聖なる狐も含む)時折あるけれど、どれも当然のようにそれが守ってくれてもしくは感動した、というオチに繋がっていく。
     それが何とも落差のある結末に失礼ながら噴き出してしまった。まあ、それが話の狙いでもあるだろうし。
     北軽井沢には一次結構行ったことがあったので懐かしい。勿論その際、一度もこんな獣には出会してはいない。

     「車で体験 八王子丘陵」二人とも聞こえた、ということは声がしたことは確からしい。
     しかしただ呼びかけるばかりで先へ進まない、というのは何とも欲求不満が溜まる。呼びかけに応じていたら話は違ったのだろうか。次回があったら是非。

     「ナビにだまされ 草津温泉」好みの異世界もの。
     カーナビがちゃんと不思議な世界へとナビゲートしてくれる、というのは凄い。
     そこで乗せてしまったと覚しき女性とはどんな存在なのか、そしてどうして消えてしまったのか。異世界ネタと通常の心霊ネタが上手くかみ合っていない感じ。

     「野山にて 娘を襲う 藪塚の怪物」日本にはいる筈のない大きさの大蛇、というだけでも怖ろしいけれど、こいつはただのヘビでもなかったようだ。毒息を吐きかけるなど、まさに怪物。この毒息、江戸時代の読本のように前時代がかっているのは御愛嬌か。
     とは言え、人を死に至らしめてしまうとはただの夢幻というわけでも無さそうだ。

     「人食い 魔ノ山 谷川岳(1)」特に怖いわけでは無いのだけれど、山ネタというと最近はつい読む時に気合いが入ってしまう。
     いきなり体験者の名前を呼んでくる、というのは不思議だ。

     「妙義で見つけた 遭難者」これも怪談として、というよりも登山目線で。
     見つかり難いところで遭難してしまった場合、皆がこの事例のように現れてくれれば、救助探索がずっと楽になってくれるのに。
     妙義山も一度訪れているのでちょっと親近感を感じる。

     「捲れる布団 高崎郊外の 葬儀前」小ネタながら、何とも不思議ではある。
     何故布団が捲れ上がっていくのか。そして、それを喪主の仕業と何故か感じてしまう体験者に、その出来事自体に気付かない喪主。
     何が起こっているのか、その真相が何とも知りたくなる。

     「老婆が来る 午前四時半の 喫煙所」確かにこんな時間に散歩している老婆、という存在はかなり怖い。ただ、彼らは結構この位の時間には起きてしまう人もいそうなので、だから怪異、と決めつけるのは難しそうだ。
     むしろ気になったのは、死神だとして、わざわざ衣装を合わせてくるのは大変だし、それをどう用意しているのかな、といったところ。
     さらに言えば、特に服などに特徴が無い趣味も無い、という人の場合、どういう格好でやってくるのか、それも見物だ。

     改めて振り返ってみても、怪談としては微妙。
     既に既知感の強い話が多かったのも印象としては稀薄にならざるを得ない。

     また、確かに群馬では初なのかもしれないけれど、このところ竹書房はやたら地方怪談に熱を入れているので読む側としてはさほど目新しくはない。
     それどころか、著者自身が「高崎怪談会」というイベントに基づくシリーズで概ねこの辺り中心のものも出し続けてしまっているので、お馴染み感はあっても画期的、という印象は全く感じられなかった、残念ながら。

    群馬百物語 怪談かるたposted with ヨメレバ戸神重明 竹書房 2020年04月27日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る