これまたほぼお初の著者。この方も女性だろうか。
ただ、こちらは結構ユニークで気になる作品も結構あった。
まずは早速冒頭の「ひとりあるき」。
常にネタバレ御免のこのサイト、これは特に申し訳ないところながら、これまで廃墟・心霊スポットの怪談は数限りなくあれど、その持ち主の語り、というのはほとんど無かったので、これだけでまず新鮮だ。噂はやはり出鱈目が多い、ということも証明される。
ところが、この本人がなぜか、由来の全く判らない怪異を目撃してしまう。その不思議。怪異というのは一体何なのか、語り手同様考えさせられもする一品であった。
「由佳さんユカちゃん」怪異自体は名前を呼ばれて虚空から返事が返ってくるだけ、とも言える。しかしその後斎藤さんが行方不明になってしまうに至る経緯がなかなかに気味悪い。しかも怪談とは無関係の話ながら、嫌われ者だけあって誰からも心配されず、そのまま放置されてしまうというのも怖ろしい話ではある。
「アパートと未練」最新のインターネットサービスを介した怪談、というのも面白い。しかも死んでいるとか何か因縁があるというのでも無くなぜかいる、しかもただ見ている、というのが妙に現代的でむしろ空恐ろしい。
「存在しない鈴木」怪異としては大したことは無いものの、ここでは語られていない裏でどんな話があるのか、想像が拡がってしまう。言葉の響きのシュールさといい、何だか味のある好きな作品だ。店長は何か知っていそうなので、著者がヒアリングするなりしてでも何とかもう少し真相を知りたいところではある。また、箱を開けてしまい捨てまでしてしまった語り手には本当に何事もないのだろうか。
「壁穴の向こう」で見られる穴、一体どこに繋がっているのだろうか。いつもながら大好物、異世界接触ネタである。一度そこから先に行ってしまった、という人の話も聞きたい。でも、きっと無理なんだろうな、やはり。
形状からかの名作（迷作？!）アニメ「エクセル・サーガ」に登場する「大宇宙の意思さん」を思い出してしまった。
「近くの山の北欧」も別の世界もしくは空間に入ってしまった話。
カーステの異常も発生しており、ただどこかに移動してしまったというのではないと想像できる。どこかに怪異の世界のようなものが存在しているのだろうか。
「バグる家族」で描かれている怪異は全く未知で何とも奇妙。
いわゆる心霊というものがある種の「バグ」なのでは、という仮説は直ぐに納得出来るものではないにしろ、なかなかに興味深い。
現象自体は皆よく我慢していたな、と思える異常さだ。祖母への愛情が何とか踏み留めてくれたのだろう。
「爪先を揃えて」丁度最後の作品になる。最初と最後の作品を共に取り上げる、というのも珍しい。
偶然というにはあまりに重なり過ぎ。しかも、著者の記す通り、これまで落ちているスニーカー、というもの自体ついぞ見たことなど無い。
それだけでも特異な話と言えるのに、後半その主かとも思われる存在に呼ばれるように危険な目にまで遭ってしまう。何とも怖い。意識を操られるように存在しない友人だと思い込まされてしまうところも。
ふと気付くとスニーカーがこちらを向いて鎮座している、という光景が繰り返されることを想像すると、それだけでも実に嫌な気分になりそうだ。
あえて挙げなかった作品にも他では聞いたことも読んだこともないような珍しい怪談が幾つもあり、久々に一冊を堪能出来た。
著者の今後に期待したい。
元投稿：２０１９年１２月頃
宵口怪談 無明posted with ヨメレバ鳴崎 朝寝 竹書房 2019年09月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る