• 岩井志麻子・徳光正行/凶鳴怪談

     新作の感想。

     岩井志麻子と徳光正行という作風も全く異なる二人の共著。
     とは言え前半後半に二分されているので、短い単著を続けて読んでいる、というだけ。 最後にどうでもよい対談が付いている位か。これも岩井氏が興味深いエピソードを次々と語る、という内容になっているけれど。

     前半の岩井作品はいつもの百物語と同じ見開き2ページでぴたりと終わる、という形式を踏襲している。怪談では無い、場合によっては都市伝説ですら無い話もあるけれど、独特の内容と語り口で印象には残ってくる。
     一方の徳光作品はこれまた例によってどうにも「薄い」ものばかりで対照的に印象は実に弱い。

     「鬼が憑く」東南アジアでもお盆や罰という概念は共通していながら、鬼が憑く、という考えや起こっている怪異などはやはり日本とは違っているのが興味深い。

     「幼なじみ」これは全く怪談では無い話。しかし、殺人を犯した人が子供の頃に見せた非情さ、それを教えてもらえた、というのは殺人を犯す人間の心を考える上でとても参考になる。この出来事の体験者が迎えてしまった最期も色々と想像させる。

     「迷惑な誤解」これもおかしな人の話ながら。不気味な行為を繰り返された語り手が、限界を超えた瞬間にぷつんときて襲いかかった、というのが面白い。
     女性が女装した男性をぼこぼこにしている図、というのを想像するともう何とも。

     「事故物件」窓をあけると見知らぬジャングルに繋がってしまう。興味を惹かれるのはよく判る。
     ただ、この道に入ってみよう、としたことはないのだろうか。自分であれば、最初は怯えていてもいつかは行ってしまいそうな気がする。きっともう戻れないのだろうけれど。
     ここで見えているのはどこか違う国、ということなのだろうか。それとも太古の昔の世界なのだろうか。縄文頃はかなり温暖だったようだし。
     しかし、この話設定が気になる。この歌舞伎町のマンション、三軒並びで当該の真ん中だけは何も無いことで不審がられている、という。なのに、この語り手は事故物件だから、ということでここに入居したようだ。題名や前提もそうなっているし。
     この矛盾はどういうわけなのだろう。

     「記念品」同じブレスレット、というだけなら偶然だろう、と考えられるものの、この事例ではそうではない。しかも国を超えて再度出会う、ということ自体がまずあり得ない。
    しかも全く同じとしか思えないものが二つに。これはもう怪異だ。
     そちらの方が強烈なので、自分が別のところで知人に会う、というドッペルゲンガーネタはおまけもしくは蛇足に感じられてしまう。こちらはよく聞く話だし。以前の彼氏のプレゼント繋がり、ということなのだろうけれど、こちらは存在自体がこの世のものかどうか判らないのだから、次元が違う。
     物理的にあり得ない同一物が二つ並んでいる、という姿の方が遙かに恐ろしい。

     「そっくりな他人」短い話なのに、二つの不思議が重なって盛り沢山。
     まずは語り手に御祓いを頼んだマキちゃん。一体何者だったのだろうか。語られているエピソードもなかなかのものながら、この件から学校にも来なくなり止めてしまったのは何故なのだろう。たまたまということなのかもしれないけれど、実に気になる。真相は永遠に判らないのだろうけどねえ。
     そして、これと全く同じ家が時代も場所も超えて存在していると。偶然とは思いつつも妙に何かが残る。
     全体にもやもやするばかりの話ながら、この裏を探っていくともしかするととんでもない真相に繋がっていくのではないか、そんなことを妄想させてしまう萌芽のようなものは感じる。

     「そっくりさん」さきにもあったドッペルゲンガーの話、ということなら最早珍しいとは言えない部類だ。
     でも、この話のようにほぼ同時にそっくりな人間に出会す、それもただすれ違う、とかではなく、事件一歩手前の出来事に遭遇しそうになっている、というのは聞いたことが無い。どちらも未練があったというわけでも無く理由が判らない、というのも興味深い。
     ちなみに、岩井志麻子のそっくりさん、というのは存在するのがかなり難しいと思う。あの扮装込みだと特に。

     「記憶」自分だけ周りと記憶が違ってしまっていて、という話も時折出会うようになった。
     しかし、ここでは体験しているのは自分一人ではなく兄も一緒。とすると記憶の改竄、ということでは説明し辛い。
     この手の話は結構遊園地が多かったような気もする。子供にとって憧れの存在、何か呼び込んでしまい易いのだろうか。

     「風子さんの家」昔は時折いたというちょっと風変わりな家・人の話か、と思わせておいて、最後急展開し翌日全くの別人(ただ同じ風子さんではあるらしい)に変わってしまった挙げ句、また翌日には空き家になっているという不思議。
     丁度引っ越し直前だった、という可能性は捨て切れないものの妙ではある。
     途中「時空」という言葉が出てくるように、どこか別の時間軸もしくは世界軸と繋がってしまっていた、ということなのだろうか。
     それも含めて、時計がどんな意味を持っていたのかも気になる。

     最後の二つ以外は全て岩井氏の作品。やはり印象度の差は歴然。
     どこか「共鳴」しているわけでもなく、欲求不満の方が募る。
     やはり本来なら岩井流百物語として一冊分しっかりと読みたかった。

    凶鳴怪談posted with ヨメレバ岩井志麻子/徳光正行 竹書房 2020年04月27日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る