• 加藤 一:編/恐怖箱 怪書

     書籍に纏わる怪談を集めた作品集。
     本と怪談、というのは相性が良いのか、興味深い作品に多数出会うことが出来た。

     「資源回収」この話で不思議なのは、フェンスについては全く意に介さず通り抜けていけるようなのに、雑誌の山は通り抜けられない、というところ。
     物理的な障壁、という意味では一緒にも思えるのに、この二つではどこに違いを生じる要因があるのか。固さなど、むしろフェンスの方が邪魔になりそうにも思えるのに。

     「刷る音」生き物ですら無い機械の、しかも音だけがする怪異、というのは珍しい。
     それもかなりしっかりと、確実に聞こえてくるようだし。
     心霊現象自体を場の記憶ではないか、とする説もあり、この話などはそういった説明が納得のいく事例ではある。

     「自販機本」自販機本のところで出くわした謎の女、それから始まる不思議な声。それが家族にまで拡がっていったかと思うと、話をした友人にまで伝染していく。そして友人は激しくなる怪異に身を滅ぼしてしまう。繋がっているようないないような、それでもなかなか強烈な事件でありながら、語り手があまり恐怖を感じていないのか、どこかのんびりしている。友人が来た以降、語り手の家での怪異がどうなったのか、全く記されていないので不明ながら、当たらない、ということはそのまま納まってしまったのだろうか。何となくすっきりしないところも残る話ではあった。

     「河原にて」河原からちょっと離れた草むらで見つけたエロ本、それを皆で見ていた、筈なのに謎の「終」という文字に続いて気づいたら全員が川にはまり込んでいた。何ともシュール、ながら多数の人間が同時に体験している、ということで信憑性も高い貴重な奇譚だ。何故どのようにこれが起きていたのかとても気になるけれど、これまた明かされることはあるまい。

     「新品に近い古本」怪異と並行して進んでいく親子の物語が何とも哀しい。ただ、幾つか描かれた情景の中で、自殺する際の紐がどこから出ていたのか判らないものだったという。事実とは異なるのでは、と思わせる点があることから、この物語が全て本当にあったものなのかどうかは断定できない気がする。もしかするとこの現象を生み出している何ものかが見せている幻想、なのかもしれないのだ。

     「しおり」は今でも継続している、というのが興味深い。ここまで来ると単なる偶然、ではあり得ないし、写真の内容もおかしい。現実とも思えないので、一体何を見せられているのか。原因や犯人が気になって仕方ない。
     語り手がこんな目に遭っても趣味を貫いている、というのも見事。オタクの鑑だ。

     「フライ」作中の物語がまさにダーガー。こちらは最後だけながら残虐性が強い、というところも似ている。是非読んでみたいところだ。かなり面白いようだし。ただ、異常とも言えるのめり込み方からすると、単純に面白いと言うよりもこの作品そのものもしくはそれを書いた人間に魅入られてしまったのかもしれない。となると作品の出来は何とも言えない。
     ただ、あまりにもダーガーを思わせるものがある、というのはどうしても気になる。語り手なのか著者なのか、どちらかがダーガーに影響を受けて創作もしくは脚色してしまったのではないか、そんな印象もないではない。

     「道連れ」因縁の本によって二人の人が亡くなってしまう。強烈ではある。
     しかし、亡くなってから時間が経って突然呪いの発動した理由が判らない。また、持っていただけでやられてしまうのも理不尽だけれど、元あった家に戻ったら姉をも殺めてしまう、というのも不思議だ。
     あるいは、見張っていたのに逃げた、という姉の言葉からすると、何か家にありたくない因縁があり、戻ってしまったことで怒りなりが爆発した、ということなのかもしれない。だとしても友人の死は理由が判らないけれど。

     「紗英ちゃんと絵本」怪異が現在でも継続している、というところが特に怖い。
     今のところ出かけないだけで紗英ちゃんの変化について何も語られてはいないけれど、性格も変わってしまったのだろうか。そして、今後どうなってしまうのかとても気になる。

     「今日も明日も」は何だか哀感に包まれた話。語り手の優しさ(なのか?)も滲み出ているようではあるけれど、解決せず継続中、というのがきつい話でもある。
     夫が「あらゆる手」を講じた、と一言で終わっているけれど、ここにどれだけのことがあったのだろうか。また、夫も別室で寝る、というまでで別れたりしていないところに、こちらも優しさを感じる。

     「ある絵本」絵本には何かあるのだろうか。立て続けに印象深い絵本話が続く。
     人の業のようなものが渦巻くおどろおどろしい話ではある。
     ただ、これは本当に怪談なのか、という点で疑問を感じてしまうのも確か。
     起こっているのはほぼ語り手が娘に取り憑いている?黄色い鬼と話をする、というもの。物理的な怪異や第三者が関わるようなものは無い。なので、元々語り手は夫の浮気に気付きつつあったか無意識に疑っており、それが嵩じて次第に精神に変調を来してしまった、と解釈しても矛盾は感じない。夫の死については既に相当具合は悪かったようだし、願ったこととは関係なく亡くなってしまったとしても不思議は無い。

     興味深いだけで無く、継続しているもしくは解決の見込が無い、という話も多かった。本によって齎される怪異はより強烈なのだろうか。
     アンソロジー本はどうも不完全燃焼、というものが多い中、この本は結構堪能出来た。

    元投稿:2020年1月頃

    恐怖箱 怪書posted with ヨメレバ加藤 一/雨宮淳司 竹書房 2019年11月29日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る