• 黒木あるじ:編/怪談四十九夜 鬼気

     これまた新作本。

     例によって多数作家の競作集。49話収録のため一話が比較的じっくりと語れているため読み応えのあるものも多い。
     今回もなかなかに貴重な事例が散見できた。

     「そらのおはか」天空の城ならぬ天空の墓が見えてしまう、というのは何だか嫌なもののように思えるけれど、いつも見慣れている人にとってはどうと言うことも無いようだ。
     しかし異世界もしくはファンタジー的な話かと思っていたら、体験者に起こった事件によって一気に話が転がる。偶然とは考え難い因縁。これが彼に見えていたのは何かの必然だったようだ。

     「宿直」非業の死を遂げた御遺体はちゃんと御供養してあげないととんでもない目に遭う危険性がある、という教訓を得られる話。
     でも、語り手としてはちゃんと仕事をしたわけだし、理不尽な話でもある。これが乱暴に運んで粗末に扱った、というのならともかく。

     「重さ」魂が抜けていると軽くなってしまう、ということ、更にはそれを迎えに行けること、など聞いたことが無く新鮮。
     ただ、通常では死亡した際に魂は抜け出てしまうもの、という話も聞くので、そちらが正しいとするとこのエピソードはおかしなことになる。
     一方で火葬場で人魂や煙が見えた、という報告もあり、真相は薮の中だ。

     「ループ」こんなループは絶対に経験したくない。でも語り手は何故こんな目に遭いながら、それを回避しようと一切しなかったのだろう。いつ果てるとも知れず霊を乗せ続けるなど、とても堪えられそうに無いのに。
     そして最後は何故突然ループが終了したのだろうか。

     「コッカッ」これはもしかすると全く怪談では無いのかもしれないけれど、クライマックスの息もつかず異音を発し続ける目も虚ろな家族の姿を想像すると、それはもうそこらの幽霊よりもよっぽど怖ろしい。印象的な話には違いない。

     「部下を思う」復讐しようと願う内力を持って仕掛けていく、という話は以前にもあった気がするものの、それを語り手が心待ちにしている、という締めの一文によって通俗的ながら人間って怖い、と改めて思った。

     「封印」踊りが時代的にもゾンビ、それもマイケル・ジャクソンの「スリラー」ビデオのものに酷似している、という印象は強い。でもそれを超えてこの作品もビジュアルイメージが強烈で残る作品ではある。ライブハウスで突然皆がそんな踊りを始めたら堪らないだろう。

     「死髪」髪を伸ばした場合限定の呪い、というのは珍しく興味深い。
     ただ、代々伝わる、ということだけれど、祖母の時から百年以上前、ということになると江戸時代であり、その頃三つ編みなどする人間がいただろうか。しかも当時は男女ともに髪自体は長くして結うのが普通。それが駄目、となると当時としてはかなり奇抜な髪型の一族、と思われてしまいそうだ。
     どうも話の根本にいかがわしさが残ってしまう。

     「そのおとこ」これは連作の最終話。まとめての印象ということになる。
     ここまで一家が次々に語る怪異は一見姿形年齢性別ばらばらで一貫性が無く、信用し辛い話となってしまう。
     ところが、トリで父親が語る話によって、それが見事に繋がってしまう。
     まさか多重人格の霊であって、その人格毎に別の姿となって現れているとは。勿論これまで見たことも聞いたことも無い新規な事例だ。
     しかもそれを語るのが冷静な精神科医、というところも信憑性が高い。
     怖さ、という点では微妙ながら、思わず唸らされる捻りの利いた話ではあった。ジャンキー向きか。

     「ない」この同級生が何故身体が無い、と思っていたのかその理由が知りたかったところ。そして集合写真で首だけが写っていた、というのは興味深い。
     よく心霊写真、と言われるものの中で、手や足が消えてしまっているものについては撮影の瞬間動いていたから、ということが知られてきている。稲川淳二もライブの度に説明しているし。
     しかしここで言われているように、首だけが写る、というケースはこれでは説明できない。
     首だけを動かさず体を写らぬ程大きく早く動かすことなど困難だからだ。
     何とも不思議。

     共作なので通しての感想、というのは無いし著者により印象に大分濃淡はあるけれど、面白い作品も多く満足できる一冊であった。

    怪談四十九夜 鬼気posted with ヨメレバ黒木あるじ/我妻俊樹 竹書房 2020年04月27日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る