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  • 三石メガネ/福井怪談

     今回もご当地怪談。
     内容的にはそれ程その土地ならでは、ということも無く、語り手、体験者が福井県に住む、もしくは出身である、という程度のものが多かった。
     
     著者は題名では男女の判断が付かず、略歴からは男性かと思った。
     しかし、話を読んでいくうち、女性の語り手が圧倒的に多いこと、中の一編で、「子どものねかしつけを終え」と書かれていたこと、そういった語り手の女性たちと取材、というより日常的に雑談をしている様子であることなどから、どうやら女性と推察する。
     勿論、今の時代、子どもを寝かしつけたから男性、と決めつけられるものでは無いのだけれど、総合的にはかなり女性であることの蓋然性が高い。
     著者が自ら作品に出て来る場合、それを想像する際に男女どちらなのかで絵面(想像する場面)がまるで違ってくるので、個人的には重要視しているのだ。

     「父の誇り」自分の名字を継がなかった孫たちに災いを齎す父。
     死んでしまうと、思考や理性というものが失われ、執念だけが残る、という考え方や事例もあるので、考えられる話だ。
     判らないのは、語り手が珍しい名字では無いのに、と疑問に思っている点。
     家に誇りを持つ、というのは別に名字の珍奇性とは関係ないだろう。
     そんなことを言ったら、藤原自体そう珍しい名字ではない。まあ、摂関家の藤原氏は皆別の名字を名乗っているようではあるけれど。

     「友情は今も」存在した筈の友人が存在ごとまるっと消えてしまった、という不思議譚。結構好みの話。
     ただ、もしかすると何かに化かされていた、とかそういった類、なのかもしれない。
     別の友人が、独りで話す体験者を見かけている、ということは、その時点で消えた友人は目撃者にとっては既に存在していなかった、ということになるし。
     因みに、怪談界の東大、大阪芸術大学が古墳のある土地に建てられた大学だ、というのは有名な話だ。

     「フリマ詐欺」こういう人でなしが報いを受ける話、というのも読後気分が良い。
     しかし、このケースではたかが指二本程度なので、何だか若干腑に落ちない。歩けなくなる位あっても良さそうなものだ。
     ただ、メルカリなどであれば、全方向のかなり高精細な写真をアップできるので、出品時点での状態と違っていたら、闘うことは出来る筈。まあ、面倒と思ってしまう人も多かろうけれど。

     「危篤の報せ」妹のふりをして電話を掛け、訪れたモノは一体誰だったのだろうか。
     叔母でも無いようだし、どんな意図があったのかも判らない。
     ただ、最初に母からメッセージが来た際、妹と行ったやり取りはどうにも要らない気がする。
     結局このメッセージは偽では無かったようだし、それがおかしなことだった、というわけでもなさそう。偶々だった、ということらしい。
     もしやこれが怪異の一部なのか、と気にしてしまった分、何だか話の印象がばらけてしまった。
     語り手が話したから、といって何でも書いておけば良い、というものではない。

     「視える家系」好かれていなかったし嫌いだったからとは言え、肉親の寿命が短くなることを率先して実行させていく、というのはなかなかのもの。
     それが気のせいなどではない、というのを証明するのが、語り手が受け継いだ寿命が見える能力による、というオチは巧い。

     「蟻地獄」少年のエピソードから考えるに、ただ、他所の場所と繋がってしまっていた、ということでも無さそうだ。
     何故語り手はそんなところに入り込めてしまったのだろうか。
     蟻地獄、という遊具は見たことも聞いたことも無いけれど。
     それと、こういった話の常として、何故事件が起きてしまうともうその後はそういったトワイライト・ゾーンに行けなくなってしまう。それは何故なのだろう。

     途中何回か指摘しているし、勿論ここに挙げていない話でも、語り手がどうも話の本筋とは関係ない要素を盛り込んだり、的外れな見解や感想を披瀝してくれるケースが散見される。
     逆に怪異の核心に巧く到達できていない話も。
     どうにも興醒めになるので止めて欲しい。
     それは、語り手の問題では無い。
     物語としてどこを深掘りし、何を削れば良いか、という推敲がうまく出来ていないことによるものだ。
     歪んだ人間模様が絡んだ話など、興味深い話がそれなりにはあったし、期待は出来そう。
     もう少し文章修行をしっかりと行って欲しい。

    福井怪談

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    三石 メガネ 竹書房 2021年08月30日頃

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