前作のことなどまるで忘れて読んでいた。
著者の性別も今回また良く判らず、作中に子育て絡みの文言がちらつくのと、友人が女性ばかりのようなので、この方も女性なのか、と想像していたところ。
また、あとがきによると今回は実話のみに限られたようなので、それは一安心。
ただ、相変わらず怪談として非力なのは否めない。
怪異がどうにも小粒で怖くない。
しかも書きぶりもあまりメリハリが感じられず、話にのめり込む、というような場面は一切なかった。
「禁忌の木」この木には、女性神か弁天さまでも宿っているのだろうか。
皮膚に現れているのは、明らかに湿疹では無く蕁麻疹だろう。経験者だけによく判る。
何らかのアナフィラキシー、という可能性もゼロでは無いけれど、女性と触れさえしなければ発症しない、というのは通常のアレルギー発症機序にはあり得ない。
「夜に舞う」ガラスに映る仲間のダンス姿が異様なものになっている。
最初は一人だけだったのが、二人ともに。
それも、当初はゾンビダンスのようなものだったのが次第にエスカレート、もう人としてはあり得ない動きになってしまう。
それも不気味だけれど、最後に振り返って見てしまう、惚けた二人の姿。
それでも、ガラスの中の二人はまだ踊り狂っている。
これは何とも不気味、
何でこんなことになるのか、まるで判らないのも怖ろしい。
印象に残る話もこの程度。
帯にも記されていた、男性が早世する一族に纏わる話「離れ墓」も、長いわりに何だか良い話で終わってしまい、由来や原因も全く明かされず、はっきりと起きた怪異は語り手の息子が謎の女性に連れられて家に戻っていた、というもののみ。これも人では無い、という証はない。
別に暗い話、悲惨な結末で無ければ駄目、ということでは無いのだけれど、雰囲気だけで話の展開も無く、真相究明する姿勢も全く見られない。
どうにも適当に作品を仕上げている、という印象しかしない。
見事にドラマを創り上げ、クライマックスの迫力や緊迫感も申し分ない、という郷内氏の作品などとは、比ぶべくも無い。
平気で創作怪談を混ぜ込んでくることと良い、怪談語りに対するスタンスに何か疑念を感ぜざるを得ない。
本当にこの次を最後に読むのを止めようかしら。こういう作家もだんだん増えてはいるのだけれど。

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松本 エムザ 竹書房 2021年08月30日頃