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  • 鳴崎朝寝/宵口怪談 残夜

     これまでは特段注目する作家ではなかったのだけれど、この本では大半の話があまり聴いたことの無いオリジナリティの高い怪談ばかりで面白かった。
     ただ、残念ながらあまり怖くは無かったのだけれど。

     「動くはずの歩道」ロッカーに入れて置いた荷物に何故か悪臭が纏わり付いている、という怪談。
     翌日まで残る程、というので、確かに隣のロッカーなどから移って、というレベルではなさそう。
     現場で遭遇した謎の男、これがホームレスの人、というならまだ関連付けできるけれど、身なりの良い男性、というのでは、どんな由縁があるのか、まるで判らない。
     この男が動く歩道で移動せず留まっているのは怪異には違いない。しかし、見えない部分で横向きになりながら必死に足をばたつかせてそう装っているのだとしたら、と想像したら、思わず噴き出してしまいそうになった。

     「『は』『る』」それ程長くない話なのに、いろいろな要素が詰め込まれ、謎が広がる。
     核となる訪問者のシーンは、王道ながらなかなかに怖い。
     それは本当に亡くなった妹だったのか。何故この時だけそんなことが起こったのか。送られて来た手紙の意味は何なのか。送ってきたのは、実際に文通相手からだったのか。母親は相手に何を書き送ったのか。
     いずれも全く手掛かりすら無い。
     また、こっくりさんを扱うものとしても、かなり異例なタイプとなっている。

     「鈴の音」独り暮らしの家に帰ったら、裂けた御守りがテーブルの上に置いてある。
     絶対に味わいたくない経験である。そんなところ、もう怖くて住めやしない。
     ただ、この御守り事件と鈴の音、関連があるのかどうかもはっきりとはしない。

     「こういちさんを呼ぶ声」この声の主は、ずっと「こういち」さんを捜していて、語り手がこの声を聞いてしまっていたのは、たまたま能力的なものだったのだろうか。
     返事をしてしまった「耕一」さんがどうなったのか、知りたくて仕方ない、どうにもならないけれど。

     「濁流より」川の濁流の中、既に亡くなった人が満面の笑みで顔を出す。
     どんな理由からなのだろう。判らない。
     その話をしていたら、突如語り手の家を訪問してくる、というのも意味不明だ。勿論怖い。

     「午前五時の配達員」怪談と都市伝説が一体となったような話。
     ただ、謎の配達員が実在の人間とは思えない辺り、立派に怪談でもある。
     友人が本当に放火魔だったのか、配達員が何故それを告発するような文書を配達していったのか。
     この作品にも謎は多い。
     最終的にはこの友人が何者だったのか、というところまで怪しさが広がっていくのも興味深い。

     怪談の原因や由来がほとんど語られず、理不尽に怪が訪れる。
     その結果も唐突に投げ出すように終わりを告げてしまう。
     ちょっと小田怪談に近いところはある。
     ただ、冒頭にも書いたようにそれが恐怖やおぞましさに繋がっていかないため、どうも印象は弱くなってしまう。
     そこが大きな違いだ。
     もう少し取材をしっかり行うか、文章で補ってくれるともっと満足できるのだけれど。

     好きな不条理系として、今後に期待したい。

    宵口怪談 残夜

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    鳴崎 朝寝 竹書房 2021年09月29日頃

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