以前から、海外ネタはどうも怖いと思えるものが無かった。
今回、それをテーマにまとめたこの本、それを一堂に会した、という印象。
要は、ほぼ全く怖くない。
それは、著者自身冒頭に書いてしまっている。
そして、実のところ全く謙遜では無かった。
これを本にしてしまったのは、納得がいかない、とも言える。
「英国怪奇録」最初のエピソードのみ、ちょっと面白かった。
そのバーの幽霊を引き取ってくれ、という話をされたところ、椅子がぐるりと回転されてしまった、という。
なかなか強烈な物理攻撃だ。
「国籍不明」こちらもまずは最初の事例。
あり得ない状況で自分の子どもの名を、しかも「腐る」などと言われたら、怯えて当然だろう。
ちゃんと日本語で警告してくれるのも親切だ。
また、最後の話も興味深い。
行方不明になる、という話なら時折あるけれど、存在そのものを消され、自分が誰かも、周りも含めて分からなくなってしまう、というのはきつい。
絶対に経験したくない呪いだ。
ただ、男の論理には納得がいかない。
旅行者としては、その土地だけで無く、どこも良かったから総じてアフリカは素晴らしい、ということは充分にある。
第一、国レベルならともかく、たまたま訪れた村の名など、逆に普通は呼んだりしないだろう。知らないかもしれない。
例に挙げている犬の話だって、余所者ならその犬の名など知らない方が自然だ。
間違っているのならともかく、あまりに理不尽、と思えてしまう。
まあ、土地神など、そうした手前勝手な存在、というのも結構あるのは確かだけれど。
「的中」語り手の未来を、二度も的中させた魔術師。
ちょっと気になる。
ただ、特に最初の占いが、彼の行動に影響を与えてしまったのは確か。
むしろそれがあったから起きた事故、ということも出来る。
二度目のにしても、その言葉が心に残って、日本に来ることとなった、のかもしれない。
もうすっかり信じ込んでいたようだし。
異なる文化、ということであれば、怖くは無かったとしても、もっと聞いたことも無いような不思議な話があっても良さそうなもの。
しかし、どれもむしろ王道というかありきたりというか、素朴なネタが多かった。
やはり、日本程怪談がある種の文化として発展している国は無さそうだし、取り上げられる怪談も最早普通では駄目になっているのだろう。
個人的にもその後押しをしていることは間違いないし。
いずれにせよ、大分残念な一冊ではあった。
これで黒木氏の角川ホラー文庫でのテーマ別怪談集も全て読破。
新作を待つのみ、となった。

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黒木あるじ 角川春樹事務所 2015年07月