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  • 服部義史/実話怪奇録 北の闇から

     気付いていなかったけれど、これも一応御当地ものだった。
     しかし、冬の話となると相当に寒そうだ、と感じる位で、北海道感はほとんど無い。

     この本も全体に淡泊な印象ではある。とは言え、奇妙な話も幾つかあり、それなりに楽しめた。

     「眼鏡」何とも変な話だ。
     夜中のキッチンで発見した自分の姿。何故か料理の動作だけを行っている。そして、突然眼鏡をレンジの上という妙な場所に置いて消えてしまう。
     これは一体何者なのか。そしてキッチン用品などには触れないようなのに、どうして眼鏡だけは着けたり外したり出来るのか。そもそもどうやって本来の場所から持っていったのか(寝室の語り手近くにある筈だったようだし)。
     霊というわけでもなさそうだし、こういった現象は不条理なだけに興味深い。

     「メモ」仮名が「田原さん」なのも気になったけれど、それが選んだ理由では無い。
     メモなのに、会話するような調子なのがまずもって妙だ。
     そして、この作品でも何故か自分が来訪してきて消えてしまう。それによってメモの「予言」は成就する。となると、この現象はメモの書き手によってもたらされたものなのか。
     当然ながらこのメモは誰が、といっても普通の人とは思えないけれど、何の為にメモを送ってきたのだろう。
     この半年は何事も無い、ということながら、これで終わりかどうかは全く判らない。
     様々な事例でも、しばらく落ち着いている期間があるものは沢山ある。
     今後がとても気になる話でもある。

     「居心地」直接は霊の声が聞こえず、電話を通じれば会話できる、というのはユニーク。
     居心地が良いから居着く、ということをわざわざ宣言してくる、というのも面白いところだ。
     ここでの居心地、というのが家のことなのか語り手自身のことなのかによって、今後が違ってきそう。確かに引っ越しても意味がないかもしれない。

     「庭の樹」正面から見据えられると息すら出来なくなってしまう。
     そんな強力なとなると、精霊というより神のような存在なのではないだろうか。
     この世ならぬものから「ごめんっ」と謝られる、というのも新鮮だ。

     「呼応」熱唱、というわけでも無く(推測だけど)口ずさんでいる曲に合わせて歌ってくる霊。しかも特定の曲だけ。よほど語り手と趣味が合っているのだろうか。
     さらにはわざわざそんな妙なことをしてくるわりには音痴とか。それを指摘すると酷く落ち込んですらいるようだ。
     これは幽霊にも感情はある派の事例の一つ、ということになる。

     「記憶」時折出会う、子供の頃の友人(の筈)が実は存在していなくて、もしくはその記憶が皆の中から消えてしまって、というネタ。
     ただ、この話はどうも曖昧でちょっと疑わせる点が多い。
     まず、何となくこの話では、悪夢を見てその結果高熱を出して寝込む、という流れになっている。少なくともそう読める。
     しかし、どちらかと言えば、具合が悪くなっていたからこそ悪夢を見た、と考える方が自然ではないか。だとすると、そのこと自体にそう不思議は無い、ということになる。
     自分の子供の頃を振り返っても、熱が出たときには結構変な夢を見たものだ。
     一番嫌いだったのは、見えている夢の映像がちょっと奥の方に引っ込んでいて(テレビのような感じ)ちょっと見辛い上にえらく気持ちが悪い。内容は一定ではなかったけれど、この同じフォーマットの夢は繰り返し見た。
     また、夢というのは覚める際ははっきりと認識出来る一方で、夢に入る時点は恐らく認識出来ない。起きているつもりだったのにいつの間にか夢の世界の中だった、ということは日常茶飯事だ。
     しかも夢でも自分の部屋にいる、というケースも少なくない。その場合も、本当に詳細に思いだしてみるとどこかおかしかったり今の部屋とは違う点があったりして確認できるけれど、全く同じ、ということがあってもおかしくはない。
     なので、意識が明晰なままでない(意識が途切れてしまう)事例は夢かそうでないかの判断はつかない、と考えた方が良い。
     この話では過去の部分をあっさりと書き飛ばしてしまっている為、「テツヤ」の存在が少なくとも語り手の中でどの程度リアルなものだったのかもちょっと判らない。
     場合によっては、テツヤ自体が悪夢の中でのみ存在していた、と捉えることも出来てしまいそうな内容であることが気になる。
     疑わずに読めば、結構怖い話だし、好物ネタでもあるのだけれど。

     「街角の占い師」インチキ占い師に出会って酷い目に遭う、という話かと思ったら、良い意味で裏切られた。
     何と結構凄い占い師だったようで見事に除霊に成功する。
     ところが、実はそれが実在する人では無かったのかも、という見事などんでん返し。
     彼を見守る守護霊とか守護天使とかそういった類のサポートだったのだろうか。

     最後の連作は、写真多数も載せられ相当に力が入っているようだ。
     しかし、結局怪異としてはそう大したものが無く、ただ凄いボスがいる、と言われても実感できない。
     写真にしても小さく粗いので何だかよく判らない。
     二枚の写真が相当に違っている、というのもよく見えない上に、元々撮影している角度が違うようなので、反射の仕方色味などは違っても当然かと。しかもだから何、というものでしかないし。

     直前に読んだ「物忌異談」同様、この本も最後の下りでちらちらと著者が顔を出す。
     しかし、それで話が深まるでもより面白くなるでもなく、むしろ若干なり興が殺がれてしまう。
     余計な要素、としか言いようが無い。

    実話怪奇録 北の闇からposted with ヨメレバ服部 義史 竹書房 2021年03月29日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る