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  • 実録怪談 最恐事故物件

     ネットショップにて「竹書房怪談文庫」で検索したところ、この本も一覧に出てきた。
     竹書房怪談文庫の本は、大抵が同じ位の値段なので、全く気にしないままこれも購入。

     届いて驚いた。
     一冊だけサイズの違う本が入っており、何だろうと思ったらこれだったのだ。
     値段も通常の二倍近くしている。
     「新耳袋」などと同じ、いわゆるムック本価格だ。

     まあ、事前に知ったとしても悩んだ挙げ句に買っていたとは思うけれど、結果的には、何だか高い買物になった気しかしない。

     前半は怪談では無く、「事故物件」というテーマに基づく何人かのエッセイ。
     事故物件の基礎情報源とも言える「大島てる」サイト開設の経緯が判ったり、事故物件芸人の松原タニシ氏が事故物件に住むようになったいきさつが判明したりしたのはちょっと興味深いところではあった。
     しかし、それらを含めこういった内容は、今ならネットの無料記事で読めるようなものと大差ない。
     村田らむ氏の特殊清掃の話などは、これと同じものでは無かったと思うけれど、実際読んだことがある。

     わざわざ金を払ってまで読みたい、と思うものでは無かった。

     しかも、北野誠氏による、いつもながらの大騒ぎのわりに何も起きないもしくは大したことがない、という内容は、この文章でも同じ。
     TV番組「おまえら行くな。」ではいつもそうだった。
     しかも、時折きわめて不合理なことを仰る。

     タニシ氏が住んでいる事故物件部屋で風呂に入ると、隣接する部屋に霧のようなものが発生している、という。
     これ普通に考えて間違いなく「霧」です。
     北野氏の主張では風呂場では湯気が見えないのに、居室の方に出るのはおかしい、といっている。
     これが大間違い。
     湯気・霧というのは水蒸気が温度の低下によって液化し、小さな水の粒になることで発生するもの。
     だから、温度が全体に高い風呂場では生まれなくとも、そこから低い部屋の方に流れ出すことで霧になる、というのはごく自然な現象であって何も不思議は無い。

     まあ、風呂場から居室の方に大量に空気が出ていってしまう、というのは建築構造的にどうか、と思わなくもないけれど、それは怪異とはまるで違う話だ。
     彼が風呂から出た途端に全て消えてしまう、というのも道理。
     一気に空気が攪拌されることで温度差も水蒸気の偏在も無くなったからね。

     部屋の中にある塵や微粒子であるとも考えられるオーブに話しかけるとそれがわーっと 動く、というのも、細かい浮遊物に息を吹きかければそれが舞い出す、というのは当たり前の話。
     むしろ、物理的にごく自然で何でもない現象を、声高に怪異だ不思議だ、と騒ぎ立てられてしまうと、何とも興醒めするばかりだ。
     不快ですらある。
     怪異が本当にあり得ないことであるかどうかを冷静に慎重に見極めよう、という態度が見えず、街のやんちゃ共が廃墟に行って騒いでいるのと同じような軽薄さを感じてしまうからだ。

     後半はようやく怪談集。
     いくつかは面白ものがあった。

     「上の部屋」途中までもなかなか不気味な怪談だ、と感じていたら、それが見事にひっくり返されてしまった。
     彼との記憶や行動は勿論、その存在そのものがまやかしであった、とは。
     何とも怖ろしい。
     ただ、不審な点もある。
     不動産屋に足を運んだ時点で既に彼と付き合っていると思い込んでいた、とある。
     とすると、この部屋を見つける前、ということだから、上の階の住人が自殺を、という話とはまるで噛み合わない。事前に何かこの部屋と縁があったのだろうか。
     そもそも引っ越しをしようとしたのは何故だったのだろう。

     「遺穢」立ち去った家に穢れを残す家系。何と理不尽な。
     そんな宿命を背負わされるのも耐え難い。
     因果関係が明白なわけではないから、偶然、と考えたくもなるけれど、親の代から数えると十回以上。しかも、全ての家で死んでしまっている、となると、最早偶々という方が奇跡とも言えそう。
     オチがちょっとホラー小説のようだけれど、旅先の部屋はその後どうなったのか、是非とも知りたいし、そこには泊まりたくない。

     「鐘の音」これは面白い、というよりも、何だか妙な話だったので。
     鐘の音と顔が現れて出て行け、と言われるのが怖ろしい。
     それは判る。
     なのに、何故それで家に引き籠もるようになってしまっているのか。むしろ逆では無いか。
     その後、別な展開があった、ということなのだろうか。

     「寝室のはず」寝室と覚しき部屋に入ろうとすると、何故か外に出されてしまう。
     しかもひどく時間だけが経過して。
     一体その間に何が起きていたのか、無性に気になる。
     シンプルながら、結構好みの一品。

     「壁」怪異自体は、子供の声が聞こえる、という左程では無いものではある。
     しかし、壁の中から出てきた、謎の品々。
     一体誰が(まあオーナーが、と考えるのが自然だけれど)何の目的で行ったものなのか、これによって何が起きていたのか、実に気になる。
     ただ、別の意味で気になるのは、こうした状況だからといって、いきなりその日に壁を壊す工事を始めたりするものだろうか。まるであらかじめこのことを予想していたかのようにも感じられてしまう。
     あるいはこの話を現実味が無いと捉えるか。
     どちらとも断定は出来そうにない。

     しかし、大半がこれまで聞いたことが無いような新人たち。
     フレッシュで斬新な怪談を披露してくれるのなら良いのだけれど、実際のところは怪異としてあまりに小粒なものばかりで、文章も大半がプロレベルには達していない。
     素人が投稿したものを添削も脚色も無しに載せてしまった、としか感じられない。
     この本ではちゃんとした監修者もいないようだから、それでかもしれない。

     というわけで、全く満足できる内容ではなかった。
     竹書房のことだから、柳の下狙いで似たような本を次々と刊行してくる怖れもある。
     例えどんなものであれ読んでみたい、という欲求を抑え、もし今後同種本が出た際には、毅然と訣別する勇気を求められている、のかもしれない。

    実録怪談 最恐事故物件posted with ヨメレバ北野 誠/大島 てる 竹書房 2021年05月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る