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  • 加藤 一:編/恐怖箱 煉獄百物語

     一冊百話収録のため、短い話が続く。
     こういったものの方が面白い話が多い、というのは、じっくり語られる怪談好きとしては、何だか複雑な気持ちに。
     これまでにも書いているけれど、やはりネタで勝負しなければならないから、怪異自体ユニークなものが多いせいだろう。
     今回もまずまず興味深い話が集まっている。

     「冷蔵庫」冷蔵庫に手を突っ込んだら掴み返される。その瞬間に心臓が止まってしまいそうだ。
     しかも、この話で訳が判らないのは、その手に存在しないマヨネーズがべったりと付いていた、というところ。
     何の嫌がらせなのだろう。
     そして、一体誰が。

     「おばあちゃんの我が儘」婆さんの最後の我が儘であの世に連れていかれてしまうとは、友人たちもとんだ災難だ。
     こういう事例は、とても偶然とは思えない。何かの力を感ぜざるを得ない。

     「渚にて」体験者には心当たりのない相手らしいけれど、その叫びからすると、本人を捜していたのか誰でも良いから人を求めていたのかは不明ながら、見つけて突っ込んできた様子。
     これも何がしたかったのか。
     そして、何故ずぶ濡れになってしまったのか。
     判る道理もない。

     「絵画展」珍しいギャラリーの怪談、ということで一層気になった。
     観る人によって全く違って見えてしまう絵。そんな作品を作れたら凄いことになるだろう。勿論、現実にはどうすれば良いか判らないけれど。
     しかも、そのギャラリーの存在自体が怪異であった、というのは尚更の驚き。
     その内容からして、別の空間と繋がった、というよりも有り得ない世界に通じてしまった、という方が納得いく。
     因みに、ギャラリー内のパイプ椅子に座っているとしたら、それは作家さんだ。

     「バ・ラ・バ・ラ」この怪異、その時だけのものだったのだろうか。今でも続いていたら、とても精神が持たないだろうけど。
     変に見えてしまったのは家族だけだったのか。
     罰が当たった、というのは心当たりがあることだったのか。何をしてしまったのだろう。
     後ろには誰か(何か)いたのか、それとも声だけだったのか。怖くて見ることが出来なかったとも思える。

     「H駅」小さい頃の自分に追いかけられる、というのは訳が判らない上に案外かなり怖そう。いつも、ということだし。
     そんなことが起きる原因は一体何なのだろう。心当たりもないようだけれど。
     それが夜のH駅に限られている、というのも不思議だ。
     両親もこの件については知っているようだ。追いかける子どもを一緒に見たことはあるのだろうか。

     「ケネディ」何の由縁もないケネディの暗殺を告げられる幼稚園児。何ともシュールだ。
     誰なの、それ。
     もっと有効な相手に注意すれば良さそうなものを。
     個人的には、ある日電車の中吊り広告を見ている時に、突然「クウェート」という言葉が頭に浮かんできて気になってしまったことがあった。
     勿論、その広告内にクウェートはおろか、中東のことも全く書かれておらず、その言葉を連想させる何のヒントも存在してはいなかった。
     そして、その数日後、イラクのクウェート侵攻に端を発する湾岸戦争勃発、というニュースを目にすることになったのだった。
     あれが何だったのかも、未だに全く判らない。

     「中年男」樹海には、優しい霊と人を連れていこうとする霊とが犇めきあっているようだ。
     最初の声について行ってしまったら、やはりもう二度とここから出ることが出来なくなっていたのだろうか。
     最近TVで、人は「リングワンダリング」という習性があるので、道に迷うと思うように出られなくなってしまうことが多い、というのを知ったばかりだった。
     この体験者は動かなかったのが良かったのかもしれない。

     「自動運転レベル5」誰も乗っていない車。
     この後どうなっていったのか、是非知りたかったところだ。

     「チクリ」怪異としてはささやかでも、物理的な攻撃だし、結構力のいることでもあるし、実に不思議だ。

     「ちょっとひとひねり」ケース内にしまわれているので、触ることも難しい。何か外的な力が加わるようなものでもない。
     何をどうすればそんなことが起きてしまうのか。
     これまた何とも不可解であるし、体験者当人にとっては不幸この上ない。
     自分でも、こんな目にだけは絶対遭いたくない。

     「用具入れより帰る」完璧な河童を見かけた、それだけでも凄い。
     しかし、その事実が、掃除用具入れに入って消えてしまった、という続けて起きた出来事によって、見事に霞んでしまっている。
     まるでどこでもドア。
     語り手には、是非その扉を開けて欲しかったところ。
     それで何が起きたかは全く保証できないけれど。
     ちゃんと皿を水で濡らす、という細かい仕草が何とも可愛い。

     それなりに興味深い話には出会えたものの、どうも粒は小さい印象。
     このところ、ドカンと来るものが全く無い状態が続いている。
     粗製濫造となってしまっているのか、取材も難しい時代のせいなのか。
     いずれにせよ、どうにも欲求不満が解消できない。
     次はとっておきの郷内本を読んでしまうか。

    恐怖箱 煉獄百物語posted with ヨメレバ加藤 一/神沼 三平太 竹書房 2021年07月29日頃 楽天ブックスで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る