この著者の作品は、他の怪談作家とは、かなり傾向が異なる。
特に今回は地元に伝わる民話、伝承が前面に出ている印象で、恐さは一段と無くなっている。
「憑いてきた子」不思議で怖いのは、体験者の彼女を轢いてしまった男が、本人の意思とは関係なくその場に向かい、轢いてしまったと思われる供述をしていること。
その場にいた者に対してではなく、遠方にいる者を操れる、というのはとんでもない力だ。
その男はどうして選ばれてしまったのだろうか。
憑いてきた子どもは、一体何がしたかったのか。
「昔語り-天狗さらい-」子どもが数時間の内に60kmも移動してしまう、というのもなかなか不思議だ。
しかし、後半のエピソードの方がもっと凄い。
足腰の悪い老人、というだけでもハードルが高いのに、ここでは突如高尾山薬王院に姿を現し、読経後忽然と消えてしまう。
僧侶達衆目の中での出来事だけに、その信頼性は高い。
「女の足」空中に浮いた足に追われ走って逃げるも、追いつかれ追い抜かれて先に消えて行ってしまった。
何だか受ける。
一体何がしたかったのだろうか。脅かしたかっただけなのか。
「生霊来店」霊感があるというママだけでなく、常連も含めて見えてしまった、生き霊のおばさん、というのも凄いけれど、その額におばさんの店の名前が記されている、のは何とも妙だ。
まず第一にその珍妙さが笑えてしまう。キン肉マンじゃないんだから。
著者自身に関わる話は、出尽くしてしまったのかほとんど無い。
ただ、一番面白かったのはそちらの方だったりしたので、その分印象は薄くなってしまっている。
どうにも食い足りない気分が残ってしまう一冊。
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川奈 まり子 竹書房 2022年04月30日頃