営業のK/闇塗怪談 瞑レナイ恐怖

 何とも言えないペンネームに、妙に砕けた口調の語り口。
 そのわりに怪談はなかなかに本格的でユニーク。
 印象的な話が幾つもある、というのがこの著者の持ち味であった筈。
 しかし、今回はどうにも非力である感は否めない。
 流石にネタ切れか。

 「目を閉じて」まさに王道の怪談ではあるけれど、その分ストレートに恐怖を感じる話。
 妙な気配を感じながら、目を瞑り続けるなど、自分には無理。
 厭な想像が限りなく膨らんでしまいそう。
 朝を思わせる光や家族のものとしか聞こえない声など、牡丹燈籠以来の伝統とすら言えそうなギミックで目を開けてしまうと、目の前には無数の顔が。
 判ってはいても、怖いことこの上ない。

 「枕」冒頭から大凡想像がつく内容ではあったけれど、呪いの効果は恐ろしいもの。
 そして、その呪いが返された時、これまた熾烈な物になる、と改めて知らされる。

 「何が起こったか」本当に、何が起こったのだろうか。
 子どもの頃から、一番気になるタイプの事件。
 漁師の親子に何が起こったのか、そしてエンジンもなく壊れた船がどうやって戻ってきたのか。後者はちょっとヒントになりそうな痕跡はあるけれど。
 そして、何故また消えてしまったのか。どこへ行ったのだろうか。
 謎が多い話だ。

 「知らせ」怪しい老人から電話がかかってくると、何があっても7日後には死んでしまう。
 自分ではとても耐えられそうにない。
 いつ死ぬことになるのか判らず毎日怯えて生きていかねばならない。
 まるで執行を待つ死刑囚のようなものだ。
 語り手の親は神ではない、と語っているけれど、日本には祟り神も幾らもいる。
 人々の行動や意識を縛り付けているとすると、立派に神の所業である、と言えるだろう。

 「近づいてはいけない」歩いて三十分以上かかる廃トンネルなどおそらくは存在しないので、途中から既にこの世界ではないところに向かってしまっていたのだろう。
 語り手が言うような「あの世」のような印象はあまり感じられないけれど。
 ただ、謎の声が迫ってきたり列車の幽霊的なものが突き抜けていったり、と別の空間に繋がったというものでも無いような体験もされている。
 毎度のことながら、確かに駄目な確率の方が激高ではあるけれど、是非一歩を踏み出してみて欲しかった。
 その場合、こうして語ってくれることも出来なかったかもしれないけど。

 こうして振り返ってみても、印象に残っているのは、いわゆる怪談とは異なるテイストのものばかり。
 本来はそうしたものの方が好みだから問題は無い、筈なのだけれど、何だか違う。
 思うに、どの話もちょっと突っ込みが足りない、というか、どこか怪異の核が描き出されておらず、どうにもぼんやりとした印象になってしまっているせいかもしれない。

 今回が偶々なのか、それとももう輝くことはないのか。
 楽しみにしていた作家さんだけに、何とも残念。

闇塗怪談 瞑レナイ恐怖

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営業のK 竹書房 2022年06月29日頃