怪談では無く、民話のような話が多い。
なので、怪談本としての印象は弱い。
ただ、そのために語られる話の方向性が大分違っており、その分他では得られないような話も散見される。
「おかえし」呪いは、返せば、かけた方に効果が現れる。
それを地でいくような話。
半年で一家全滅、というのは偶然で片付けられるレベルではない。
しかも、呪詛を行った当人にの死に様も不気味。
「かみかくし」神隠し、という事象には、昔からどうも惹かれてしまう。
しかも、ここでは単に行方不明になったり、遙か遠くに瞬く間に移動してしまう、というだけのものでは無い興味深い事例が含まれている。
天狗、もしくは山人と覚しき者に見初められ、そこを離れられなくなってしまった人の存在である。
しかも、ふらっと街に姿を現すこともあるので、完全に閉じ込められているわけでもないらしい。
今でもそんな連中、場所は残っているのだろうか。
「かみさまざま」この中で書かれている1エピソード、<チョンベロサマ>というのが凄い。
大工が、自分の妻から助言を受けたことが悔しくて妻子を殺してしまい、それを悔やんでその妻子を祀ったものだ、という。
いや、そんなの、もう神でも何でもないだろう。何か障りがあったとしたら、それは神罰ではなく、怨霊の祟り、なのでは。
まあ、祟り神というのは、全般こんなものなのだろうか。
「八幡提灯」息子の無事を祈り、神社にお参りすると、突然提灯が消えてしまう。
何か悪い知らせでは、と怯えていると、実は、その提灯の明かりが息子を助けることになった、という。
珍しく心温まる話。
「さいのかわら」彷徨う霊を成仏させてやろう、と賽の河原を訪れた僧侶。
そのまま行方知らずになってしまった。
何が起こったのか、想像すると何だか怖ろしい。
禁忌である石を持ち帰ってしまい、不調に襲われて石を帰してきた人間。
しかし、そこに書かれた名前は偽りのものだったという。
そんなことをして大丈夫なのか、むしろ心配になってしまう。
「テキを這うもの」穴の中で遭遇する怪異。
その姿は、相当に怖い代物だ。しかも、その動きは、何だかフナムシを思わせて一層恐ろしい。
それが何者なのか、果たして語り手自身に関連するものなのか、かなり気になる。
また、「テキ穴」じたいにも興味を惹かれる。平安時代の人骨、彼らは何故そこにいて死ぬことになったのか。
文章の書き方からすると、そこで暮らしていたようにもとれる。何故なのだろう。
ただ、穴の入口はコンクリートで固められている、と。しかも、内部には電灯もあるようだ
だとすると、人は出入りしているし、電気を管理している者もいる、ということになる。
禁足地、という話は、どうも怪しくなってしまう。
「火難譚」まさに今起こっている火災を見事言い当てる神託。なかなかに信憑性が高い。
また、愛宕神社の神罰もかなり厳しい。
神の怒りは恐ろしい、ということを改めて感じさせられる。
心霊現象、というよりも、神に纏わる話や超自然的な存在に関連する内容が特徴的。
土地、風土が深く関わっていることが伺える。
そういう意味では、まさに御当地怪談ならではの一冊であった、とは言えそう。
posted with ヨメレバ
黒木 あるじ 竹書房 2023年01月30日頃