呪術をテーマとしたアンソロジー。
呪い、というのは形を為すものではないので、明確に怪異、と言えるようなものではないことがほとんど。
起きたことが本当に呪いによるものなのかただの偶然なのかも判然とはし難く、因果のあるもなのかどうか、素直には受け取れないものも多い。
ただ、やはり受けた呪いの結果が強烈であれば、印象に残ってくるのは間違いない。
「カブトムシ」何の救いもない、かなり強烈な呪いの話。
呪われる相手がそうされても仕方のないような人。といっても、語り手はこの相手をかなり嫌っており、内容にも相当のバイアスが掛かっているとは思われる。
この話で興味深いのは、語り手が呪いをかけた当人では無いためその報いを受ける立場でもなく、その結果だけを享受でき楽しく暮らせる立場にある、という点。
かなりレアなケースだ。
「後悔」やばい相手と一旦付き合ってしまうと、結局不幸な結末しか無さそうだ、というのが何とも怖い。
そんな因果に関わってしまったが為に、若くして急逝してしまった、とも思える彼女が可哀想でならない。
時折聞こえてくる言葉の断片、と覚しきもの。全く意味を想像することも出来ず、真相が実に気になる。
「悪筆と達筆」何だかよく理解出来ない、語り手の言う通り「変な」怪談だ。
語り手の生徒である女の子宛に届いた手紙。子どもからのものとも思えず、語り手には悪筆にしか見えないのに、生徒母子には達筆に見えているようだ。書いてある内容まで読む人によって違うらしい。
しかもいつの間にか無くなっていたり、勝手に届いたりする。
高熱との関係は判らない、としか言いようが無い。
名前も書かれ確実に届けられたにも係わらず、この娘は違う、というのも妙だ。
この食い違い、一体どういう訳なのだろう。
怪異の真相もまるで見えてこない。
「権力の暴力」出世した途端に豹変する同期もなかなかのものだけれど、会社を成長させるために社員のエネルギーを吸い取る呪術を掛けながら、自分たちだけはそこから逃れている経営者一族。もし本当であれば、かなりとんでもない。
しかし、後半がどうも解せない。
既に退職してしまっている語り手の家族そして本人に災いが訪れる。
会社に掛けられた呪術だとしたら、何故この時点で。その会社に所属しているうちならまだ判るけれど。
また、同じ地元とは言え、異業種の会社の人間にまでかなり詳細なところまでその呪術の話が広まっている、という。
それ程の話が、会社内には全く出て来なかったのは何故なのか。それも呪術のせいなのか。
また、最後に今は外資に乗っ取られている、という。呪術が破綻してしまったのだろうか。
そして、経営者の一族が離散して行方知れず、というけれど、既に関係なくなっている会社の経営者一族の動向なんて、元々伝わったりするものなのだろうか。
どうも、語り手が呪術というところに拘り過ぎ、意識が無理矢理引っ張られてしまっているように思えてならない。
「呪います」自殺する人間が、自分を見つけたものを呪います、と書き残す。
どういう心境なのだろうか。
既に死んでしまった人間が、見つけて欲しくていろいろと出て来る、という話はあったけれど、そのまま無かった存在になりたかったのだろうか。
それにしても傍迷惑な。なら、死体がずっと残るような山中ではなく、長距離船に乗り、太平洋上で飛び込む、などしたら良さそうなものだ。
この場合、超自然的な力かどうかはともかく、京極的もしくは西尾維新的に言っても、呪いは発動してしまっている。
おそらく、この先はどうにも‥‥。
「はねかえる」呪いは掛けた人間にも返ってくる。
それを証明するような事例。
死に至るような強烈なお願いをしなくて良かった、のかもしれない。
その商家では、一族間で呪いが流行っていたようで、それが皮肉めいていて上手いオチに。
「ステッカー」これは一番嫌なタイプの呪いだ、とも言える。
結局、相手に何かない限り、これからずっと怯えつつ生きていかねばならないのだから。
対処法として爪を剥がす、という一番痛みが激しい、と言われる方法を教えられたのは、意図的なものだろうか。そして、それは本当に効いているのか。
「親子水入らず」田舎の連中の閉鎖性と非情さ冷酷さを見事に描き出している。
これはもう、報いがあって当然、と思える程に。
出来れば村全滅の詳細も知りたかったところながら、穏やかな人生を送るためには、そこで激してしまってもいけないのだろう。
確かにこんな経験をしてしまったら、何があっても動じることなど無いに違いない。
冒頭にも書いたように、はっきり怪異と言えるようなことが起きない話も多く、何となくぼんやりとしてしまっている。
呪い・呪術としても、左程強烈なものが無かった印象。
ここに挙げたエピソードの著者を確認するとやはり常連作者がほとんど。
中には何だか稚拙に感じてしまう話などもあり、力量の差がどうしても出てしまったようだ。
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久田樹生/つくね乱蔵 竹書房 2021年10月29日頃