「出雲怪談」とは言いつつも、実際には因幡=鳥取県も含めた二県に纏わる一冊。
やはり、これらの土地は、神々や人ならざるモノとの距離が近い、そう感じさせられる話も結構あった。
ただ、怪談としてみると、それが怖さに繋がっているわけでも無く、残念ながら物足りない。
「野辺送り」馬の背に遺体を乗せて集落を廻る、というユニークな野辺送りの最中に蘇生したおじいさん。
惚けたようになってしまった、というのは仮死状態の時に脳に血液が流れなかったりすれば、充分に有り得ることだ、と思う。
しかし、その後人の死を予言できるようになってしまう、というのは常識的には説明がつかない。しかも呼び方からすると最初のは子どものようだし。
そして間もなく行方を眩ましてしまう。
一体どこに消えたのだろうか。冷静に考えてしまえば、徘徊のようなものでは、などとも想像は出来てしまうけれど、あえて不思議なことと捉えると、何だか空想が膨らむ。
ただ、気になるのは、その送りの儀式、馬の背を横断させるように遺体を載せる、とある。
だが、遺体ってとにかくかちこちに硬直しているものだ、と聞く。
それを、馬の背のように尖ったところに上手く載せることなど出来るものだろうか。
死亡直後ならともかく。
何か板でも渡した上に載せている、というのなら何とか出来るかも。
「水神様」水神様、というのは、個人的に何だか怖い神さまの一つ。
別に何かあったわけでもそういう話を聞いたわけでも無いし、本来的に祟り神でもない筈なので、何故そう思ってしまうのか全く判らないのだけれど。
子どもの頃の著者に残虐な邪教の神と思われてしまった氏神様も結構可哀想だ。かなり壺に入るエピソードだった。
しかし、この話を読むと、水神様もなかなか厄介なお方であることが判る。
荒れたら荒れたままで放っておいた方が良い、など通常の扱い方とはかなり違うので、知らなければ対応しきれない気がする。
とすると、昨今人気になっているTV番組「池の水全部抜きます」など以ての外、ということになりそうだ。
そんなことになったら、彼女の身に何が起きてしまうのだろうか。
「火星人の肝試し」これが怪異なのかおじさんの心の迷いなのかは、何とも判断がつかない。実際何も起きていない、とすら捉えられる。
しかし、この「火星人の肝試し」というワードが強烈に印象深い。どうにも気になってしまう。
まあ、著者にとっても語り手にとってもそうだからこそ、言ってみれば「この程度」の話が掲載されるに至ったのだろう。
それは納得がいく。
「社の目」と思っていたら、そうとも言えないのかも、と風向きを変えてしまったのがこの一編。
実は屋上の祠に何かあるのでは、とも思わせる内容だ。
とは言え、この話と「火星人の肝試し」というパワーワードとは、やっぱり全く結び付きはしない。
「借家」語り手は謎の子どもを見ただけで済んだものの、後から住んだ家族は子どもを事故で失ってしまったという。
しっかりと霊を見てもいるし、関係ない、とはとても思えない。
対応は大正解だった、と言えるだろう。
ただ、話の結末には疑念もある。
既にそこには住んでいない語り手ですら、三人の子どもが、同じ死んでいることを知っている。
田舎、ということもあるし、周囲も皆知っていることだろうし、不動産屋にしても、何も言わないでは済まないような物件になってしまっている。
そんなところに次々と同じような家族構成の家族が引っ越してくるだろうか。誰も何も言わないのか。語られてはいるのに。
大家さんにしても、もうちょっと何か考えるのではないか。
今は誰も住んでいない、といってもぼろぼろになってしまったせい、とも取れそうだし。
「天狗」天狗伝説があるから、なのか、天狗、の話、ということになっているけれど、何か現れてくるわけでも無く、これをそう意味付けるのは何だか腑に落ちない。
まあ、怪異を全て天狗だ、と捉えてしまって、ということではあるのだろうけれど。
室内に座っていた筈の赤ちゃんが、一瞬で鍵のかかった窓の外に移動してしまう。
何かが移動させた、とも取れるけれど、猫と遊んでいた、とあるので、子ども自身の超能力なのかもしれない。
いずれにせよ、なかなか不思議な事例だ。
「箱」「コトリバコ」の話が出て来るとは懐かしい。舞台も内容ももう全く覚えてはいなかったけれど。
都市伝説として知られたコトリバコと同じ、かもしれないものが見つかる。
見つかるまでの筋書きやその箱の雰囲気など、お膳立ては素晴らしい。
しかし。
結局箱を開けることは出来ず、中身を確認したわけでは無い。
怪異と呼べるのは、千切ってしまった筈の髪(それも本当にそうなのかは不明)が元に戻っていたこと位。
語り手たちに起きたのも、この話をしようとしたら、肝心なところでノイズが入ってしまい話せない、というトラブルのみだ。
別に何か祟りがあったということも無さそうだ。
舞台となった家が無くなっていた、という結末のエピソードも、既に老齢の御夫婦だったようだし、数年経っていれば、取り壊されていたとしても不思議とは言えない。
元々間違いなくその場所かどうかも確かでは無いし。
何だか大仰に出たわりに尻すぼみに終わってしまった噺。
これまで書いたように、興味深い話でも疑問が生じてしまうようなものがあった。
また、取材不足なのか書きぶりによるものか話がぷつり、と終わってしまい、置いてけぼりにされてしまうことも度々。
結構ユニークな怪異も多くポテンシャルは感じられるものの、読後感は何だかもやっとしてしまった。
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神原 リカ/古川 創一郎 竹書房 2021年09月29日頃