怪談社の書記だった伊計翼氏が離れてしまったためだろうか、どういう巡り合わせからかは不明ながら、福澤徹三氏と組むことになったようだ。
ただ、福澤怪談はかなり温度の低いことが多く、あまり盛り上がらない。
この本は特に、怪談師である糸柳氏が怪談の起こった現地を訪問する、というルポがメインとなっているため、一層その感が強い。
なので、印象に残る話はほとんど無かった。
「押入れの腕」何だか話の辻褄が合わず、不思議な印象が残る。ちょっと小田怪談のよう。長く伸びてきた腕、というのが何なのかが一番判らない。やはり母親の意識のようなものなのだろうか。
「電柱」これも何だか妙な噺。語り手が迷い込んだ、であろうところがどこなのかが不思議なのは勿論、そこにいた男の子が何者なのかも判らない。まず第一に、飲み会に紛れ込んでいる男が誰なのか、それとその別空間とがどう絡んでいるのかも不明。題名にもなっている「電柱が増える」というのがどういうことなのかもさっぱりだ。最後に見た電柱のことなのだろうけれど、増えた、という状況でも無いように思う。
とは言え、その収まりの悪さも含め、結構好みの一品。
「死にたくなる部屋」特別雰囲気が変なマンション、というわけでも無さそうなのに、同じ部屋で三度も自殺が続いている、と。何とも怪しい。
この一帯全体に妙なところが多いようで、出来れば実名を知って近付きたくも無い。
最後に挙げた「死にたくなる部屋」でもそうだけれど、糸柳氏が現地で聞いた話が多く、どれも断片的で突っ込んだ取材も行われず、中途半端なものになってしまっている。
きちんと磨けば怖いものになるのかもしれないけれど、今の段階ではへえ、で、と思ってしまうネタばかりだ。
既に書いているように、そこに福澤氏のキャラクターも相俟って、とにかく淡々と進んでしまって惹き込まれたりもせず、読み応えも無い。
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福澤 徹三/糸柳 寿昭 講談社 2022年07月15日