もう何冊目かの沖縄怪談。
語り手や話の中に登場してくる人物たちがほとんど沖縄人なので、何だか皆のんびりしている。
土地的にも、神さまや悪霊などが存在していても不思議ではない、と思えるところ。
そういった雰囲気が独特の民話調を創り上げており、いわゆる怪談とは大分違う趣ながら、読んでいてほっこりとしてきて、なかなかに楽しめる。
やはり琉球は日本では無い独自の世界なのだ、と感じさせられる。
怪談としての視点で印象に残る話、というのは多くないものの、読後感は悪くない。
「黒牛」店の中に黒い牛がいる、という図は相当にシュール。
子どもがいきなりこれを見たら怯えるのは無理も無い。
因みに、以前奈良で店の中に押し入る鹿、というのは見たことがあるけれど。
怪異との関連性は不明ながら、後年の不幸も気になるところ。
また、「牛さん有り難う牛乳」というネーミングにも感銘を受けた。
子ども心にも、きっと牛への感謝の気持ちを忘れないだろう。
「アラドコロ」野ねずみが空中で静止し、ぐちゃりと潰れる、というのはまるでホラー映画のような凄いシーン。
果たして未だにアラドコロのままなのか、それとも動物たちが怖がる理由は別にあるのか。自分なら気になって仕方なくなりそう。
「ウニが来る」本来なら呪われた家の祟りとしておどろおどろしい話になりそうなのに、流石沖縄、何だか印象が違う。
しかし、呪いの鬼が、何故願いを叶えてくれるのかが判らない。
それと、男女二人を殺した、とあるけれど、告白した女性は結局殺されてしまったのだろうか。
「自治会連絡掲示板」劇中劇まで登場する大作。
いろいろな人間模様も描き出され、実は大きな怪異は掲示板に名前を書くと死んでしまう(らしい)という点だけなのだけれど、話に惹き込まれてしまい読み応えは充分。
こんな話も、沖縄だと何だかあってもおかしくは無いような気にさせられる。
これも不審な点はある。
山田さんの話では、死んでしまった利用者の名前と、全く知らない名前が書いてあったという。とすると、この時点では書いてあった名前はこの二つだけ、ということになる。
もし沢山書かれているなら、後者の表現がこうはならない筈。
それなのに、語り手が見た時には「数限りなく」書き込まれていた、と。
あっという間に大量に書かれてしまったのだろうか。
また、マサ子さんが体調を崩してしまった理由は何なのだろう。語り手と最初に逢った時点から自分の退場を予見していたようだし、彼女から何かの影響を受けてしまったのだろうか。
「マウガン」これも怪異そのものよりも物語に惹かれてしまう。
墓の中で暮らす、など沖縄でしかあり得ない独特な世界だ。
語り手の半生も悲惨そのものだけれど、後半がちょっとお伽話のようなので、それで大分救われている。今は落ち着いているようだし。
会話の端々に登場する沖縄言葉に触れているだけで、何だかのどかな気分になれる。
同じようにちらちらと描かれる風景や海、空、忘れられない記憶を刺激し、地元でも無いのに、懐かしい気持ちが湧き上がってくる。
やはり大好きな土地だから、ということもあるだろう。
こういう御当地ものであれば、納得性は高い。
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小原 猛 竹書房 2021年08月30日頃